今日、友達と電話で話していて、なぜか
共通の友達の Aの話になった。
そのAとは音楽を通じて知り合ったのだが
音楽に関しては素晴らしい才能を持っていた。
ところが性格は、おとなしくて内気で恥ずか
しがり屋で、初対面の人とは口もきけないし、
人が多いと声も上ずってしまうほど緊張する。
僕はAを対人恐怖症ではないかと疑っていた。
しかし人間って不思議なものですね!
そのAが一度ギターを手にステージに上がると、
人間が一変してしまうのである。
まるで水を得た魚のように、いきいきしていて
アドリブの時なんかはステージの中央に行き、
時には客席にまで降りて、「俺だ!俺を見ろ!
俺が中心なんだ!」と言わんばかりにギターを
弾きまくっていた。
でもAは最初から、そうだったわけではない!
最初は緊張の余り、指も動かず、よくとちったり
いていた。
見かねて僕はAに、「緊張なんかする必要は
全くないんだぞ! お客は道端に落ちてる石ころと
思え!」と言ったことがある。
それからのAは、普段のおとなしいAとは別人の
Aになっていった。
音楽をやってる連中の間では、お客さんのことを
「クーキャ」と言ったりするが、そのAだけは
「一番前の席にいた石ころが・・・・・」とか
「三曲目の時に、石ころたちが・・・・」とか
完全に、お客さんを 石ころ扱いしていた。
そのAと 喫茶店でコーヒーを飲んでいた時、
40代くらいの女性が入って来た。
Aは、その女性を見るなり 困惑したような顔に
なり、その女性に気付かれないように顔を背けて
いたから「知ってる人なの?」と聞いてみた。
するとAは「以前、バイトしていた時の社長の
奥さんですよ」と小声で言っていた。
「そんな世話になった人だったら、隠れるんじゃ
なく、自分から挨拶に行かなきゃダメだろうが!」
そう言うと、Aは「僕が、すぐに緊張しちゃうのを
知ってるでしょう?」と同情を求めている。
「お前って自分から挨拶したことないんじゃないの?
たまには、自分から挨拶してみろよ!」と強い口調で
言うと Aは渋々立ち上がって、ゆっくりとした
足取りで女性が座っているテーブルまで行った。
しかしテーブルの前で立ったまま何も言おうとしない。
女性は本を読んでいたが、Aに気付き「あら!お久し
ぶりね ○○君」と先に挨拶していた。
それでもAは何も言わずに黙っていたが、さすがに
何か言わなきゃと思ったのか、やっと出てきた言葉が
「はじめまして!」だった。
おいおい! 相手は「おひさしぶりね」って言って
いるのに「はじめまして」はないだろう!
呆れてみていると、今度はなんと!「僕、○○と
申します」と自己紹介していた。
なんで今更自己紹介なんだよ!
相手は、お前のことを○○君って呼んでいるんだぞ!
信じられない光景である。
女性は笑いながら「元気だった?」と聞いていたが
Aは、ますます緊張したのか「元気らしいです」と
他人事のように答えていた。
その後、話に困ったのか、Aは僕を指差しながら
「あの人、○○さんと言います」と僕の紹介を
するではないか!
俺のことは関係ないだろうが! 久し振りなんだから
他に話はあるのに・・・って思っていたら、Aは
更に僕を指差して「あの人、ああ見えてもけっこう
いい人なんです」とまで言っていた。
いくら緊張するといっても、これじゃ挨拶になって
ない!
呆れるのを通り越して ただただ唖然としていた。
こんなに緊張する人を見るのは、初めてである。
Aがテーブルに戻って来て、コーヒーを飲む手が
震えていたのも覚えている。
その後、女性がトイレに行ったから、その隙に
帰ろう! とAが言い出したから、さすがに
これ以上は気の毒だと思い、帰ることにした。
ところが、予想以上に女性が早く戻ってきたため
Aは焦ったのか、女性に向かって「ひさしぶりです!」
と言っていた。
僕は笑を堪えるのに必死だった!
書くことがなかったから、若い時の話を
書いてしまいました。
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