色々なものが唐突に消えていく島を舞台にした作品。
香水、帽子、花、フェリーなど次々と「消滅」していく。それは人々の記憶から消え、存在自体忘れ去られる。
消滅を徹底させるために存在する「秘密警察」は、消滅した「物」の痕跡ばかりでなく、稀にいる記憶を失わない人まで捕らえて島から消し去ろうとする。
物を失うことの消失感が、ゆるゆると胸を浸していき、なんともいえない不安な気持ちにさせられます。
主人公は、小説家で、作中もう1つの物語も同時進行していくのですが、この内容がまた、心の不安定さに拍車をかけ、なんともいえない世界観に漂っている感覚なのです。
どちらも違う物語でありながら、多くの共通点を持っています。
理不尽な喪失を受け入れている彼女たちに、焦りや疑問を感じつつ、なすすべもなく巻き込まれていくような感覚。
「博士の愛した数式」が全体を通して温かく優しい文章だったのに対し、こちらは冷たい透明感のある文章といった印象です。
大きな展開があるわけではないのに、じわじわと惹きこまれていきました。
この本は、
蒼幻の雫の源助さんに紹介して頂きました。

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