先日。渋谷Rキャフェーにて、妖精パンクツーショットコンビ、MEKTちゃん達のリサイタル。いつものように、たった独りの撮影隊という役割で、お手伝い。今回の彼女達のコンセプトは、ケサランパサラン。そもそも、ケサランパサランは、江戸時代から伝わる正体不明のフワフワであり、そういうワケのわからぬ事をコンセプトに選ぶ事自体がナンセンス極まりない。ワケがわかったところで、大した意味も無さそうである。我々、ヒューマンビーイングは、日々、何かにつけ、行動や思考に意味を求められる。そうやって自分のしている事、またはしようとしている事に、小難しい意味でもクッツケナイと、はしたなくて、やってられないような、後ろめたい生物なのである。そんな文明社会に警鐘を鳴らし、意味を持つ事なんて、意味のナイ事なんだ、という事を気付かせてくれるのが、MEKTちゃん達なのである。人間は、素敵なモノを目の当たりにした瞬間は、時間も思考も止まるはずだ。そして、しばらくして我に帰り、今、目の前で起こっている自分の状況を、自分自身に説明しようとする。ここに意味のようなモノが発生する。体裁を整えようとするかのように、さっき受けたばかりの感動を多少犠牲にして記憶にとどめようと、記号化する努力をする。それはいかにも自然の摂理から逸脱した行為のように思える。オレは、MEKTちゃん達に初めて感銘を受けた瞬間の事を憶えている。時間が止まったのである。さっき述べた、意味を持たせるという、セコい行為の前段階、素敵なモノと、それを目撃した者との、いちばん純粋で幸せな関係、時間も思考も止まる段階、それが彼女達のステージの間中、続いたのである。コレは、自分にはできないな、と思って、素敵だな、と思ったのを、鮮明に、また同時に古ぼけた戦前のカラー映像のような質感のイメージと共に、記憶している。そして今宵も、彼女達が、意味を持たせるなんて野暮な事はお止しなさい、とステージから語りかけてくれる時間が来たのである。さて、ケサランパサランに至る前にいろいろな表現の段階がある。ステージには、人工の沼が作られている。観客の誰一人として、これから起こる事を想像することすらできない。神のみぞ知る、だろうか。いや、キュートな妖精ちゃん達は、神様にさえ、あかんべぇをしてハグラカシテしまうかもしれない。ドラムロールと共に沼の水面に二筋のスポットライト。そして、次の瞬間、勢いよく水飛沫を飛ばしながら、二人が現れる!ワンショルダーの野生っぽい衣装、右手にはチカラコブを作り、マナカナの様に息ピッタリに、開口一番、「ダッダァ〜ンっ!ボヨヨンボヨヨン!」…これは…まさかのノッケから、レジーベネットの物真似!ある者は、意外性に腰を抜かし、またある者は、やっと出逢えた、とばかりに感動の涙を流している。オレも震える手を必死に押さえながら、ヴィデオキャメラのファインダーを白目になりそうなのを堪えながら…五木ひろしの物真似みたいな顔になっていただろう…、とにかく、この超常現象をカメラに収めるのは、オレの使命だ、とばかりに、必死に喰らいついた。MEKTちゃん達はこちらの修羅場など何処吹く風、次の変身を遂げていた。…ピエロ!何時の間にかピエロの格好になっていた!頬に描かれた大袈裟な涙の絵を指でなぞり、哀しみを表現。涙なんて実際に出てない事はわかっているのに、地球全体の哀しみをこのステージに集めたかのように、透明なBlue。いつしかオレも、貰い泣きをしていた。五木ひろしの物真似みたいな顔で。さて、ステージ上のピエロちゃん達、さすがにピエロだけあって、哀しませるだけでなく、綱引きの真似をしてズッコけたり、有りもしない窓ガラスにぶつかって尻餅を着いたり、一転、オーディエンスを笑いの渦に巻き込んだ。一旦、緞帳が降りて、また上がり、第二部が始まった。燕尾服に文金高島田といういでたちに変化(Hen-ge)した彼女達の前には、無数の、水の入ったコップが。一人はコップの淵を擦ってぽわ〜んとした音を出し、一人はマレットでコップを叩く。はて?…聴き覚えのあるメロディー「涙の後には強くなれるよ、アスファルトに咲く花のように…」…!マヨ・オカモトが放ったゴスペルナンバーではないか!オレも学生時代は、この曲に励まされてサッカーの部活を頑張ったものだ。聴衆達は皆、このナショナルアンセムに合わせて、思い思いにリズムをとりだす。Rカフェーも今日ばかりはダンス広場だ。コップを奏でながらインカムで歌いはじめた彼女達、「花のぉ、よぉぉうにぃ〜」という、この歌の一番特徴的な節回しのある箇所を執拗にループさせる。花のぉ、よぉぉうにぃ〜、花のぉ、よぉぉうにぃ〜、花のぉ、よぉぉうにぃ〜、どっ、どっ、ドッ、ドッドッ…、アーシーな四つ打ちのキックがフェイド・インしながらマヨ・オカモトとレイヤーされていく。これが噂のリミックスってやつか。機械の作ったサウンドなんて音楽とは認めない、と頑固に突っ張っていたさすがのオレも、この妖精とリズムマシーンとのオーガニックな融合にはお手上げだ。カメラを持っているのを忘れ、ステージ上の彼女達を真似てヴォーグ・ダンスに没頭…手ブレ補正で何とかなった、というのは後日談である。イケナイ、イケナイ。その後も、演芸のデパートと呼ばれるに相応しい演目を次々にこなしていったMEKTちゃん達。ここに書ききれないので掻い摘んでみると、やはり圧巻だったのが、ホーミーを駆使しての童謡メドレー。他にも、クレヨンしんちゃんのものまね、一筆書きで歴代首相の似顔絵を描く、また、会場脇では、彼女達の趣味でもあるキルト展や、スポンサー企業の販売する健康食品の即売会なども開かれ、オーディエンスを満足させた。ここまで書いてきた我が拙文を振り返っても、彼女達の、宇宙以外の何物でもない、多次元的なGIGの熱狂的な様子をわかっていただけたと思う。MEKTちゃん達は、次のGIGへ向けて、秩父山中で合宿を張っている、との情報が、近所の電線から次々と発せられる電波や、通りすがりの人々の携帯電話の電波によって我が脳内に届いたばかりである。まだMEKT体験をしていない全ての人々に、伝えたい。ファクシミリで。おわり。


1