昨日は講演内容の紹介で中途半端に終わったので少し補強したい。人の本質は思想、哲学であり価値観、人生観、死生観が基本要素であると述べた。従って人づくりとは正しい思想の持ち主に導く事である。それには先ずその人物を鑑定する必要がある。どんな組織にも2:6:2の原則が当てはまる。つまり月給分以上に会社に貢献出来る人材が2割、トントンの人材が6割、月給泥棒が2割である。会社を発展させるには2割の貢献社員をもっと働かせる事と6割のトントン社員を指導してプラス社員の比率を高める事である。現代の義務教育のように出来ない生徒を底上げして平均レベルを上げる教育は効率が最低である。だから出来る生徒は学校を相手にせず塾に通う。競争が悪だから運動会で手を繋いでゴールする発想と同じで下の下である。欧米でも教育は全て英才教育である。凡愚教育は学校ならまだしも、企業がそんなことをやっていると忽ちつぶれる。
私は2割の駄目社員を二つに分けていた。一つは真面目でこつこつやるが能力不足で成果が上がらないタイプである。人には誰にも良いところがあるからそれを見付けて長所を活かせる職種に変ええてあげることにしていた。もう一つは能力がありながら会社や上司の悪口ばかり言ってやる気の無いタイプである。このタイプは採用ミスであって指導するだけ無駄である。残すと月給泥棒どころか組織に害毒を齎すから、直ぐ販売やサービス、生産の現場に追いやって根性を鍛え直すことにしていた。現場でこんな態度だと総すかんを喰うから反省して立ち直る場合が多い。
部下を育てるコツは今も昔も変わらない。山本五十六が詠んだとおり「やって見せて、言って聞かせてさせて見て、褒めてやらねば人は動かじ」である。自分が出来ない事を部下に命じても駄目である。やって見せて背中で見せる事が不可欠である。次に失敗しても自分が責任を取るから思い切ってやれと部下に任せる事である。但し駄目社員を信頼して任せるのは大怪我をするから止めたほうがよい。そして出来る部下には能力を少し上回るような難しい仕事を与え、出来ない部下には能力を少し下回る易しい仕事を与えて成功体験を積ませることである。
駄目上司の殆どは上手く行くと部下から取上げて自分の実績にし、失敗すると部下の所為にして逃げる。これほど白ける事はない。部下はまだ若いし出世志向も強くないから上司を見る目は厳しい。特に女子社員は出世など無関係だから更に厳しい。この上司は本当に会社や部下の事を考えているのか、或いは自分の出世ばかり考えて上にゴマを摺っているのか直ぐ見抜く。従って部下を従わせるには仕事だけではなく人生を語り哲学を語って自分の人間性を理解させることが重要である。人間として尊敬出来なければ誰も本気で附いて行かない。
私も多くの上司に仕えたが中には心から尊敬できる上司に恵まれた事もあった。その時がサラリーマンとして一番幸せだった。然し殆どの上司が駄目上司だったから私は12人の直属上司と喧嘩して悪名を馳せた。社長と喧嘩して社長室出入り禁止処分を受けた事もある。私が部長止まりで終わったのも全て自業自得である。然し部下が5人もホンダのトップクラスの役人になったから私の人づくりは間違っていなかったと自負している。
町づくりについて最後に話したことを掻い摘んで見ると以下の通りである。
町づくりは所詮産業を興す事無しには成り立たない。当地域には林業、農業、水産業の一次産業と観光の三次産業しかない。二次産業は殆どの企業が中国やベトナムに生産拠点を移転しているから当地に招くのは難しい。喩え来ても規模が小さい。観光も熊野古道だけでは客が来ても余り金が落ちない。従って一次産業の再興に取り組む必要がある。
かってこの地は林業で栄えたが輸入材に負けて山は荒れ放題である。然し有数の森林資源大国日本が自国の木を切らないで大量の輸入材に頼って居る事に世界の厳しい目が向けられている。輸出国も何れは環境保護の見地から木材の輸出を制限する日が必ず来る。その日に備えて間伐材を切り、山を整備するべきである。間伐材を利用して低質の炭を量産しアフリカ諸国にODAの一環として提供するべきである。内需は県下の小中学校を建て替えるのは全て木造にすればよい。河川の護岸も、海岸のテトラポットもコンクリートから木材に変えれば外観も美化される。
農業は農水省と農協から離れて地域住民主体で根本的に集約化、有機化しなければ未来は無い。食糧危機は必ず来るから減反政策など無視すればよい。大企業の参入を促して美味、品質、安全を売り物にして輸出を図ればよい。食料もカネさえ出せば買える時代は終わりつつある。食料自給率を高める必要があり、何れ高いの安いのと言っていられなくなる。水産業もハマチの養殖だけでなくマグロもタイもあわびも大規模に養殖すれば良い。紀州は日本有数のリアス式海岸が延々と続いている。要は単なる一次産業に知恵を出して1.5次産業に育成する事である。
大体以上の主旨で講演を締めくくった。拍手喝采を浴びたから成功だったと思う。

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