先日小泉さんの早めの引退に賛辞を贈ったが、次男に地盤を譲るためだと分かってガッカリした。少し訂正する必要がある。結論は小泉さんは晩節を汚した。高僧の高邁な説法も屁一つで有難味が失せるのと同じである。
小泉さんの良いところは媚びず、怯まず、捉われずという行動の美学にあった。小泉美学、哲学のポイントは潔さにあった。もう首相時代で燃え尽きたから退け時であるという認識も正しい。然し次男を後継者にするという判断は単なる親馬鹿であり最後に間違えた。折角此処まで貫いてきた自分の美学、哲学に反した。港で船を割ったようなものであり惜しまれる。
親馬鹿と言うが、親が子を思う心は人間の性であって頭から否定するつもりは無い。わが子に対する親の情は人間のごうであるが、飽くまで私的な関係に留めるべきであり、公的な場にまで持ち込むのは明らかに行き過ぎである。小泉さんは地元で圧倒的な支持があるから息子さんが後を継げば易々と当選して衆院議員になるだろう。ご自分も二世議員だったから三世議員に何の疑問も感じないとすれば倫理感覚が麻痺している。
財界でも多くの創業者が後継者選びで晩節を汚したのも全て親馬鹿の成せる業だった。トヨタも松下も同族経営で一事傾いたが大政奉還で立ち直った。ダイエーの中内さんも優れた創業者であるが息子可愛さで折角外部から招いた優れた経営者を追い出し、ダイエーを潰した。ソニーも井深さんの後実権を握った相棒の森田さんが息子を取り立てて一時低迷した。
私が最初に選んだ安宅産業も創業者は教養と人望のある人だったが、ドラ息子を常務で入れて経理を任せてから可笑しくなった。社員は次の社長が誰か分かるから取り巻きが大勢出来て優秀な社員が白けて辞めた。私もその1人である。案の定安宅産業は間もなく倒産して伊藤忠に吸収合併された。私は船が沈む前にネズミが逃げ出すように先見の明があった。
例外がホンダと京セラである。本田宗一郎と稲盛和夫は日本でも最高の創業者だと思う。
共通点は思想、哲学が正しい事である。宗一郎氏は共にホンダを大企業に育て上げた実弟を早い段階で子会社に追いやったし、ホンダに入りたかった長男に[お前は頭が悪いからホンダの入社試験に受からないだろう。俺に恥を搔かせないためにもお前はホンダを受けるな」と命じた。私はこの話を本人から直接聴いたし、息子さんからも聞いた。創業者社長が息子を入れるのに入社試験を受けさせる事は世間ではあり得ない。如何に宗一郎氏が弟や息子の事より会社の将来を考えて同族経営を排除したかを証明する事実である。
私も息子が大学を中退してフリーターになったことが最大の悩みだった。ホンダ内では結構実権があったから息子の就職を世話する事は簡単だった。事実子会社の社長お二人から息子さんを預かりましょうと言われた時は涙が出るほど嬉しかった。然しそれはホンダイズムに反するし自分の美学、哲学にも反するのでお断りした。息子の為にも良くないと思ったことにも因る。自分の尻は自分で拭けと突き放す主義だった。結果的には息子は社会の底辺を這いずり回って苦労したお蔭で人間的に随分成長した。晴れて医者になれば結果良しである。
私も親馬鹿だったが小泉さんより増しであるし、晩節を汚す心配もない。汚すような地位も名誉も元々ないからである。凡人は幸いである。

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