チュニジアの政変が周辺のアラブ諸国に波及してデモが広がったとき私は何れは大国エジプトにも及ぶだろうと予測した。案の定エジプト全土で数万人にも上る大規模な反体制デモが起きた。強権手法で30年間も統治して来たムバラク政権に衝撃を与えて居る。
1981年サダド前大統領が暗殺されて以来、エジプトは長期に亘って非常事態令下にあり、エジプトの治安当局は令状無しで逮捕出来る強大な権限を有している。従ってデモが数百人規模に膨れ上がる事は極めて稀であった。数万人規模のデモは恐らく前代未聞である。
カイロ中心部で起きた数千人規模のデモ隊は「ムバラクは必要ない」「ベンアリと同じ運命にしよう」と叫びながら行進したが、警官隊が強制排除して4人が死亡、200人が拘束された。今のところデモ隊より野次馬の方がずっと多いが野次馬が何時デモ隊に加わるかで事態は大きく変わるだろう。若者たちが交流サイトのフェースブックやツウィッターで呼び掛けていたが、当局の対抗措置で携帯電話が繋がらず、ツウィッターも遮断された。エジプト内務省はいかなるデモも認めず参加者は徹底的に取り締まると警告した。
エジプトのネット普及率は16%に過ぎないのでデモ参加の呼びかけは難しい。特に貧困層が政府の食料品配布で懐柔されているのでまだ大人しい。若し貧困層に広がれば事態の収拾は困難になって一挙に政権崩壊に繋がる可能性が大きい。警官隊の排除を恐れず、野次馬や貧困層がデモに加われば一気に流れは変わると思う。
権腐十年と言うが30年も権力の座にあると権力者は必ず腐る。息子に権力を継承させると観られているがとんでもない事であり、エジプトの私有化である。今度のデモで命が惜しくなって多分6選目を目指さず引退すると思う。但し息子を後継にすることには拘るだろう。他人に譲り渡せば過去の悪事がばれて訴追されるからである。多分膨大な個人資産を海外に隠している筈である。チュニジア元大統領の海外資産の調査も始まった。シリアのアサド大統領が息子に世襲させたのも悪事がばれないようにするためだろう。
米国政府は中東和平の仲介でムバラク政権に頼ってきた。アラブ諸国ではイラクに代わってイランが台頭したが盟主は相変わらず大国エジプトである。ムバラク政権が安定しているので米国は人権問題や強権政治に目を瞑ってきた。米国得意のダブルスタンダードである。そろそろ米国もエジプトの民主化に乗り出すべきである。

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