私が大好きだった音楽評論家の吉田秀和さんが逝去された。98歳の大往生である。前日に編集者に原稿を手渡したと言うから最後まで現役で仕事に打ち込んだ幸せな方だった。今はクラシック音楽も廃れて吉田さんの評論に接する事も少なくなったが、私が若い頃はカリスマだった。戦後古典音楽評論を確立したが、その評論は流麗で味わい深い文章だった。
吉田氏は東大仏文科卒業で小林秀雄や河上徹太郎と親交があった。旧制高校では漂白の詩人中原中也に師事して詩を学んだ。その影響からか単に音楽に留まらず文学や美術にも造詣が深く謂わば文明評論家であった。小林秀雄が文芸評論家と言われるのと同じである。
吉田氏は音楽教育の振興にも大きな貢献をした。指揮者の小沢征爾氏を育てた事でも有名である。「吉田秀和」全集で大仏次郎賞、「マネの肖像」で読売文学賞を受賞した。
小林秀雄亡き後これほど幅広い芸術評論家はもう二度と出ないだろう。謹んでご冥福を祈りたい。

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