先ずは弔意である。
11月7日、筑紫哲也さんが亡くなった。
ひとりのニュースキャスターとして、同時にジャーナリストとして他のそうした人々に比しても好きな人だった。しかし当然だが僕などとは、生前、何らの関係も無かった人だ。
だが一寸書いておかないとと思う事が、今回の芝居の中で生じたのだ。
彼の事をひとりの登場人物(女性)が言いつらう個所がある。彼女は傲慢な商売人で、自らの失態からニュース番組に何度も出ることになり、そんな時の裏話をする。その時に筑紫さんの事が出てくる。
「〜まあ今年はよく出たわね、テレビ。専らニュースだけどね。ニュースキャスターって言うの、何人も会ったわよ。安□優□はダメ。あいつはそのうちライスみたいになるわよ。ライス国務長官よ。筑紫さんね良かったのは。でも、あのひと死ぬんでしょ。知らない?スタッフがそう言ってたから〜」
傲慢な人間の知ったかぶりで無神経な一言として書き、役者に言わせたが、その芝居の翌日に現実にそうなっては、不敬を免れない。そして僕自身がやりきれない思いだ。
こんな大阪の一芝居の中の瑣末な事が遺族や関係者に伝わることなどないだろうが、思ってもみない偶然に、「筑紫さん、すいません」とだけは言わせて欲しい。
そして、今インタ−ネットを見て、更なる弔意だ。
チャンバラトリオの前田竹千代さんが亡くなった。
9日というから日曜だ。胃癌だという。
1978年芸能界入り。僕より2年後輩だ。無論、彼は漫才師で僕は作家。犬千代・竹千代時代も知っている。「笑の会」でも一緒だった。
告別式は12日。必ず行こうと思う。
※そして参列させて頂いた。師匠のチャンバラトリオさんは勿論、兄弟弟子でもある宮川花子さん、青野敏行さんも参列。花子さんの横には夫・大助さんも。一寸関係は分からなかったがダイノジの姿もあった。あ、結城さんもである。
棺に納まった竹千代さんは小さかった。多くの花と一緒にハリ扇や衣装が入れられた。
55歳だという。結婚はしていたのだろうか。子供はいたのだろうか。誰にも聞く事もなく、葬炉の前を最期に、お別れをしてきた。
おふたりのご冥福を祈る。
さて、日記はいよいよでとうとうの芝居初日からだ!
■11月4日(火)■
9時起床。
だが、役者以外のスタッフはこの時間には会場の「amHALL」に入り、舞台、音響効果、照明のセッティングと客入れの為の準備に忙しい。
音効と照明はベテランのお二人だから任せておけば良い。問題は舞台のセッティングだ。
舞台監督はこれが初仕事の塾生・城田和哉。そのアシスタント連が、これまた芝居未経験の塾生達!
だが、久保克司氏(スタッフステーション)がいる!
彼の指示のもと舞台に必要な装置が設置されていく。
◇中幕=元々アムホールには無いので新しく釣るのだ。
◇スクリーン=芝居の中で映像が入る。これもこの芝居専用に釣る。
◇映写機=同上
◇スモークと○○○○玉(東京公演があるので未だ秘す)用の装置。
11時近く、僕が会場入りした時にはその真っ最中。どの顔にも余裕は無い。
只、ロビー(?)には雨上がり決死隊からの花がもう飾ってあった。
芝居の花が僕は好きだ。芝居という見世物の絢爛な虚飾を作り、役者の心を隠微と言う非日常へ誘う。
この日も開演までに次々とその花が届けられた。
だがそれを味わっている余裕はない。
先ず、楽屋割りがしてなかった。舞監の頭にはその割り振りはあったようだが、実際には楽屋の前に役者の名前を書いた紙を貼り、誰に聞かなくても役者が自分の楽屋を分かるようにしておかねばならない。
特に今回のような、楽屋から舞台への移動が外を回らねばならかったりする時は、出番と着替え時間を考慮して、経済的で合理的な割りでなければならない。
既に役者が「私の楽屋何処?」と言っている。無論、事無きを得たが、舞監・城田の不用意でしかない。
こんな時必ず何処かで怒号や罵声が起きるのだが、それが無い。一重に僕の人徳か。いえいえ、城田の余裕の無さを上回る、大塚さん、久保さん、増田さんの自信のお陰であります。
だって、後からスタッフに聞くと、僕の顔は相当緊張していたらしい。本人はそうではなかったのだが。もし僕の顔がそうであったとしたら、舞台や装置の心配ではなく、ボク自身の台詞への不安だったと思う。実際、喉の調子は全く良くなっていなかったのだ。
僕は人に任せたら出来るだけ口は挟まない。その人を信用して全部任せる。その方がその人のやる気がキープできるし、何かあった時、責任の所在が明確で、それは結局将来に繋がることだと確信しているからだ。上の者が口を出すと下は育たない。仕事上の僕の信念である。
つまり、当り前だが大塚さん、増田さん、久保さんを信じ、初体験でも城田と塾生を信じたのだ。
さて、設置された装置毎に、それが万全に機能するかが確かめられて行く。中幕の開閉、スクリーンの上下、音効、照明、そして大道具、小道具の場所。
しかし、やはり舞台設営が大変だったようで、この時点で最初の予定より1時間以上がオーバーしていた!
一方役者は、衣装の点検と、楽屋から舞台袖への通路の確認、そして台詞の再確認である。
嗚呼!なんとその時、ノブシコブシ吉村君の三幕と十四幕の衣装が無いことが発覚!何という失態!
本人のうっかりと言うか、呑気さにも少々腹が立ったが・・・吉村ぁっ!無論、確認できていない演出(僕)も悪い!
更に、水野くんの六幕の靴もだ!
仕方がなく、僕があれとあれならいけると、頭の中で私物から検索し出し、僕の家に取りに行く事にする。
この時、もうゲネプロに入ろうという時間だったのだが、この為に更に30分が遅延!
しかし、流石に特殊な衣装の為に吉村君の十四幕の衣装は無い!ここは更に仕方がなく、天神商店街へ飛び出し、「○○○のおもちゃ屋」にて緊急購入!何とかしたった。
そうこうして、準備は何とか整った。さあ、先ずはきっかけ合わせ、そしてゲネプロ・・・なのだが、この時点で2時間押し!
ゲネプロを諦めて、きっかけ合わせを中心にリハーサルを行う事に、と言う決定を止む無く僕が下す。
ま、言うてもかわら長介プロデュース公演なもので。
しかし、その時の、城田、北村、北方、柏原、三浦、池本・・・等スタッフの顔と言ったら、不安で目も鼻も口も顔から落ちそうだった!
※きっかけ合わせ※
〜芝居のきっかけとは主に音効の出没と照明の点滅と幕の開閉である。それらは殆どが役者の台詞や動きに合わせて=きっかけとして決められる。この台詞でこの音楽を出す。この動きでこの照明に変わる。この役者が退場したら暗転、と言った具合だ。
この確認と記憶は相互作業だ。スタッフも覚えるが、役者もきっかけの台詞や動きを忘れてはならない。それを忘れると、消えるはずの照明も消えない。起きるべき銃声もいつまでたっても起きない。芝居はガタガタ、メチャメチャだ!〜
その開始が本来は12時だった筈が、14時半。ゲネ無しは致し方のない判断である。
音と照明のタイミングを計りながら、ダメだしとOK出しを繰り返す。勿論、それは僕の役目。
時には、その音カットとか、その大道具無しで行こうとか言う事も生じた。
そして問題は舞台転換と着替え。
舞台転換は二幕、四幕、六幕がてんてこ舞い!
着替えはカオルコさんと、お松くんと、水野くんが大童!
大道具の撤去(はけ)と着替え。逆の大道具の配置と着替えを何度もやり直さなければならない幕もあった。
しかし、時間は容赦がない!
開場時刻の18時半が迫る。不十分は誰しもが感じている。
そして、スタッフも、役者も、マネージャーさんまでもがゲネがやれていない不安を抱えながら、リハーサル終了!
「お願いします!」と声を掛け合って、それぞれ所定の位置に向かう!
後日、城田から聞いた話だが、この時スタッフのひとりが「帰りたい」と弱音を吐いたという。無論、そんな敵前逃亡は許される訳が無いが、舞台裏初体験の責任と不安がそう言わせたのだろう。
しかし、敢えて言う。勉強、勉強!
即刻、客入れ開始!
さあ、開演まで30分もない!僕は役者として、メイクや着替えをやらなくてはいけない。だが、今回僕は3役をやるが、出番と出番の間には時間が十分あって、着替えやメイクの描き直しは余裕だ。と言っても、緊張は嫌が上にもであるが・・・
幕の間から客席を除くが思ったより客席が埋まっていない!椅子は170ほど用意したらしい。結局初日は110名ほどの入りだった。有難うございました。
さ、開演だ!5分押しで、遂に幕が開いた!
客電(客席の明り)が落ち、場内が暗くなる。客入れの音楽「Chicago」が一瞬大きくなり、やがて小さくなっていく。それに入れ替わるようにJazzが流れてくる。
舞台も暗いままだ。
今その舞台上には藤原君ひとりが板付いている。
ジェット機の音をきっかけに譲くんも板付く。
この芝居の第一声は譲くんだ!しかも〜秘密!
それをメイクも着替えも済ませた僕は下手のソデで聞いている。ふたりの関係を暗示するやりとりの中、あ、藤原君の台詞が飛んだ!
だが、それは何の破綻も引き起こすことなくプロローグは終わった。
降りて来た彼に聞いたが、彼は全く気が付いていなかった。緊張の一言である。
そして、スクリーンにタイトル、『牛馬頭のゲーム』!
迫力の音楽がいい!何度も言うが選曲は僕です。
続いて、チラシをモチーフにした紫の画面に役者の名前が出ては消える!
中村譲
今里哲
水野透
藤原光博
キスノカオルコ
帽子屋お松
吉村崇
徳井健太
ここからは1画面ふたりだ。
鬼塚和未 兼重泰子
浜口祐次 浜村孝政
亀谷さやか かわら長介
!!!!!!!!!!!!!!
(14人分のビックリマークだ!)
映像の為のスクリーンが落ちて、第1幕〜集められた六人〜
僕は袖で見守るしかない。
さて、僕の出番が近付いてきた。今回のこの場面の為に塾生・河内が作った衣装を着て、暗転中に板付きだ。
僕の第一声は、
「いやあ、良かった、良かった」であるが、とても小さかったそうだ。
それを二日目が終わって聞かされて、最終日は頑張りました!って言うか、初日終わりで言ってくれよ!ま、役者としては期待されてないって事か。
更に二役目の時に噛み倒す始末!
「牛馬頭さん!日本(×)相撲協会の(×)親方衆の誰ひとりとして(×)モンゴル人を正式に(×)弟子にした人はいないんです!」
一緒に舞台にいた役者連中、ヒヤヒヤだったそうな。
しかし、例え下手でも、役者は歯痒い!
折角作ったモノ(舞台)を自分で見られないからだ。
だが、芝居は進む。
初日の緊張感の中、役者のミス、スタッフのミスはそれなりにあった。
五幕の哲ちゃんも大変だっとか。終了後の酒の席に哲ちゃんはいなかったが、この話は盛り上がったようだ。
それらの反省と確認と、やり直しと作り直しは明日15時入りで総点検ということして、今夜はお疲れ様!
だが、最大の反省は上演時間。今日は2時間半!稽古の段階で詰めた筈だが、本番はやはり生き物、生モノ、別モノだ。実際の段取りは仮想とは違う。更に役者の生理もある。
そして、入って頂いたお客さんは100人強。う〜ん・・・少ない!
それら全てを抱えて、先ずはお疲れさんの一杯!
近くの料亭(高くない)で、役者と作家とスタッフとマネージャー、20人ほどでカンパ〜イ!
僕は飲みながら台本片手に何処を縮めるかに頭を悩ます。でも、段々酒に負けて行く。
そして、カラオケ〜ラーメン・揚子江と3軒で今夜は帰路につく!
譲くんがこのラーメンを気に入ったようだった。
ところで、僕の好きな芝居の花。今回も色んな方々から頂いた。何と、譲くんにはあの小沢一郎から来ていた!
以下は僕に頂いた方々だ。遅ればせのブログながら、謝意と共にお名前を記させて頂く。
◇雨上がり決死隊 様
◇en 様
◇大野紘美 様
◇毎日放送『明石家電視台』 様
◇毎日放送『ジャイケルマクソン』 様
◇ミナミ クラブ『くろねこ』 様
◇ミナミ クラブ『シャイ』 様
◇有限会社デラックスキッズ・田中啓太郎 様
明日は二日目。役者もスタッフも今日の失敗と成功をどう繋ぐかだ!
『牛馬頭のゲーム』勝つのは誰だ!
緊急の告知!
東京公演のチケットの売れ行きがいまひとつ!
芝居をご覧になった方もそうでない方も、東京方面にお知り合いのおられる方、是非にとご推薦下さい!
カトリーヌ「人生は芝居。人生は苦渋。つまり芝居も苦渋なのよ!」

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