2009年、年明け早々、僕は醜悪なものに襲われた!
■突如、僕の目の前に現れたその醜塊はテレビの中から、「今年も良い年にしましょうね!」としたり笑顔で語りかけてきた!
■続けて、「よろしくお願いします!」と携帯電話を片手にした10数人の男女がその羞塊に追従した。
■再びその臭塊が携帯片手に「送るわよ」とほざく。
■すると「恋愛」「健康」「勉強」「お金」「仕事」という文字が画面に踊る。
■もう一回10数人の男女の画面になり、男のナレーションが「2009年、7つのアドバイス」と喧伝する。
■そして最後、三度目、あの皺塊が「携帯サイトで会いましょう」と微笑む。
■同時に「細木数子」と文字が打たれ、検索ボタンが押される。
あなたも必ずや目にされたことでしょう。この醜悪を!
僕は思う、占いは――いや、何事もであるが――謙虚でなければ。殊に、占いなどと云うものは、根拠も証拠も実態も無いのに人の人生を判定し、予測し、且つこうしなさいとまで言い切る。もともとそういう傲慢なモノなのだ。それを解った上で、占ってやるでなくて、占わさせて頂くでなければ。幾ら謙虚過ぎても過ぎない。
それなのに、頼まれもしないのに、しゃしゃり出て、「あんたは今年ダメ」とか、「あんたには悪いものが憑いている」とか、「あんたは病気になる」とか言うのは、失礼にもほどがあるし、全く迷惑千万、何の権利があるんだという話でしかない。
それならまだいい、本当はまだも何も良くないが、挙句に「あんたは才能が無い」とか、「性格に問題がある」とか、「癌だ」とか、それはもう占いの範疇を超えた、私怨としか思われないような決め付けをして来る(輩がいる)!
何かに縋らざるを得なくなった人が、「占って下さい」と来た時に初めてそれではと「占ってあげる」。それ以下でも以上でもない。その矩(のり)を超えてはならない。
それに、何より、当たっているかどうかさえ結果次第なんだから。偉そうにできる道理がないのである。
それが、正月からテレビで大宣伝だ。心得違いも甚だしい!
どんな形であれ、人の人生にモノをいう、指針を与えるのである、謙虚以外になりようがない。それが、限界のある人というもののせめてものやりようである。
そうかやっぱり!
そうなのだ、あの女はやっぱり人ではないのだ。
嘗て僕は彼の女を今世紀に実在するふたりの悪魔の内のひとりだと言った。
もうひとりはブッシュだ。
人じゃないか。そうか、それならやるな。やってしまうな。
でも見たくなかったな。
と、2009年も無残な明け方をしてしまった。
そしてもう一つの悲惨。
年賀状が年を越してしまった!
御存知の方は御存じなのだが、2002年からは僕の年賀状は「私家版干支辞典」である。ま、こう書いても判らない人にはいつまで経っても判らないのだが。
その原稿が仕上がったのが12月の27日、毎年頼んでいる近所の印刷屋さんはもう正月休み。結局、版下を持ち込んだのがその印刷屋さんの仕事始めの正月5日。出来上がりは明日7日。
という訳で、今年の僕の年賀状は10日以降に届くことになります。
関係ない人の多いお知らせでした。
では、製作日記、果たして今回で最終回となるか!
■12月11日(木)■
今日の稽古場は新宿。
勿論と書くのも情けないが、フルメンバーではない。
カオルコさん、哲ちゃん、讓くん、ノブシコブシが休み。
更に、舞台監督の城田は大阪でやらねばならいことがあって、今回の東京は不参加。事情はなかなかに容赦がない。
浜浜、イー☆リャン、亀谷の役者陣や、塚越、竹村、河内ら作家達にも代役をやって貰って、ともかく台詞の再確認、再記憶だ。
ところが、そんな主役たちがいない事がそうさせたのか、演出の大変換が起きた。といっても、僕が思いついて変えたのだが。
終盤、お松さんの役である時折(ときおり)というダメ社長が、ロシアンルーレットとそれを実行しようとする者達、
――偽装がモットーの零細総合商社「吉超」の女社長しなだ(キスノカオルコ)
――ゲイのシャンソン歌手カトリーヌ(今里哲)
――新興宗教・今日現在教の信者棚衣一遍(これがWキャストで、吉村崇・徳井健太)
――戦争で死ねなかった自滅男樫須兵助(水野透)
――冷静冷酷のギャンブラー刀力(中村讓)
この五人の非人間性に覚醒し、ロシアンルーレットを否定し、反乱し、五人を罵ってその場を去るシーンがあるのだが、その直前、順番が回ってきた時折に刀力が、
「時折さん、あなたは(ロシアンルーレット)どうするんです?」と訊き、彼はこう言う。
「やらへん・・・・・。俺はこんなんは御免や。引き鉄引かれへんで結構。借金返せんで結構。その代わり、命はちゃんと持って帰る。ええねん、それでええねん。こんなん出来るお前らがおかしいねん。刀力、樫須、棚衣、しなだ、カトリーヌ。お前ら死ぬぞ。こんなことしてたら死ぬぞ。いや、死んだらええねん。いつか違うぞ、ここや、ここで、お前ら、全員、死ね。・・・死ね」
そして、彼はロシアンルーレットが行われているその部屋を出て行く。
これを、大阪公演では終始叫び気味でやった。台本にすると「!」マークがいっぱいだ。
それを、ふと思いついて、静かにしてみたのだ。自分に言い聞かせるように、怒りを飲み込んで、心を吐かせたのだ。
ここは、この少し前から、時折が大声で皆を責めている場面だった。それが5、6分も続く。今思えば、その一辺倒さがどこかで気になっていたのであろうか、後半をガラッと変えたことで、この場が締まった気がした。より時折の気持の転換が現わせたのではと自負している。
急に芝居を変えられたお松さんは、最初は戸惑い、なかなかその変化を演技として出せずにいたが、回を重ねるごとに、時折の心情を掴み、静かだが強烈な反抗をものにし、無理の無い良い演技になっていった。
そして、東京公演の初日には相当な出来に仕上げてくれ、最終日は抑えの利いた格別の演技をしてくれた。
・・・・・褒め過ぎか。
なにはともあれ、その思いつきは成功したと僕は考えている。
そして、この日は「日刊スポーツ」の取材があった。
大滝社長の知人が記者をやっていて、そのコネクションで公演直前の劇団を載せるページでこの芝居を扱って貰う事になったのだ。
稽古を中断して、僕がインタビューを受けた。「牛馬頭」の名の由来や、ストーリー(少々)、役者さんのことども、約20分の取材だった。
読んだ方はおられるでしょうか。少しでも芝居の事が人の耳に目に触れるなら有難いことだ。
そして17時。僕が「ダウンタウンDX」の収録に行くのに伴って、本日の稽古も終了。
稽古は、明日と21日だけだ!
■12月12日(金)■
12時、新宿。
リットン、哲ちゃん、亀谷が不参加。
たくらだ堂〜102で誤認がありました!この日、ノブシコブシは参加したのです。
でも確か、この日は参加できないという連絡を受けてたような・・・ともかく、有難いことは間違いない!
当然、Wキャストの為に、ノブシコブシの出る幕を中心の稽古だ。
だがこれが多い。
〔一幕:集められた六人〕=ロシアンルーレットの場にひとり遅れてくるのが某宗教にはまった棚衣。これがノブシコブシの役だ。この芝居で初めての登場シーンだ
〔二幕:棚衣の真実〕=その教団内。何故、棚衣がロシアンルーレットをやることになったかその理由が明かされる。
〔三幕:時折の理由〕=時折がロシアンルーレットをやるはめになった理由が語られる。理由は会社が倒産寸前に追い込まれ金が要るのだが、その共同経営者・森栗がノブシコブシの役だ。この辺から時折のダメ人間さが描かれる。
〔四幕:しなだの正体〕=吉超の女社長しなだの理由だ。四人姉妹の三女の婿がノブシコブシの役。養子なので娘たちの総攻撃に遭う弱い男の役だ。
〔五幕:刀力と云う男〕=刀力の理由が彼の口から開陳される。ロシアンルーレットをやるひとりとしてそれを聞くノブシコブシ。
〔七幕:カトリーヌの事実〕=カトリーヌの理由がこれまた彼女自身の口から語られるのだが、彼女の先祖の五人のうちの一人としてノブシコブシも登場する。その五人は浜口浜村と僕とイーとそしてノブシコブシが演じる。全員真っ赤なドレスに厚化粧のゲイだ。
〔八幕〜終幕〕=ここからは極限のゲームロシアンルーレットに六人が一人づつ順に挑む場面だ。中でノブシコブシが扮する棚衣は最初に挑戦し、そして成功する役回りである。つまり2000万円を手にするのだが、全ては樫須(水野)により大どんでん返しの結末となる!
という訳で、ノブシコブシが登場しないのはプロローグと六幕だけなのだ!
しかもふたりが同じ役をやるので、稽古は同じ場面を交代して二度やらなければならない。時間がいくらあっても足りない!
だが焦りは禁物。何より、彼等が少しでも台詞と動きを覚えて、出来る限り不安を少なくして当日に臨まなければならない。当たり前だが、彼等が一番苦闘しているのだ。
そして、稽古場は5時までしか借りられていない。無情にも時間が来て、稽古日は残すところ本番前日の21日のみとなった!
帰り際、新宿大ガード横の靴屋でゲイ役の時のハイヒールを買った。2500円也。
■12月16日(火)■
客の入りが不安で仕方がない。
もっと方法は無いかと考えた時、高須(光聖=ご存じ放送作家。因みに後輩)を思いつき、彼のブログで「長さんが芝居をやる」と書いてくれないかと、あまりしたことの無いメールを送る。
まあ、虫のいい話である。相当な他人のふんどしである。
「迷惑で、筋違いなお願いをしていることは承知してます。そして、勿論これは君のブログを読む人が多いことや、影響力の大きいことを見込んでのお願いです」
と書き添えた。
心情としては忸怩たる思いである。しかし、背に腹は代えられない。ひとりでもお客さんが入ってくれるならなりふり構っていられないのだ。
その翌日高須に「あんなメール送ったけど」と言おうと電話をした。けれど、その時には既に彼はブログに望んだ通りの事を書いていてくれたのだ。「あれで良かったですか?」と、彼は言ってくれた。
大いに感謝を伝え、そして電話を切った。
勿論、直後に彼のブログ「御影屋」を覗いた。ちゃんと書いてあった。有難さと申し訳なさが中ばして襲って来た。だが、有難いでしかない。
■12月18日(木)■
音効・増田さんと東京公演に向けての打合せ。
劇場の広さや勝手が変わったので、必然的に段取りが変わった部分があり、上演時間を短くしなければならない為に変更した部分もある。それらを伝えて、1時間ほどで終了した。
東京、もう一度お願いします。
■12月19日(金)■
12月24日の京橋花月でのイベント「Sorry X‘mas〜京橋でやったらこんなんになっちゃた」の打合せをNGK(なんばグランド花月)の3階楽屋で行った。
このイベントに出てくれる芸人さんは、
○矢野兵動・矢野くん
○プラン9・お〜い!久馬くん
○プラン9・ヤナギブソンくん
○プラン9・浅越ゴエくん
○すっちーこと須知くん
○新喜劇座長・川畑泰史くん
○ランディーズ・中川くん
○中山功太くん
○リアルキッズ・安田くん
○ギャロップ・林君
の10人。
この日は、浅越くん、安田くん、ヤナギブソンくんが他の仕事で不参加。
発案者の三期田中亮治とで全体と各コーナーを説明して終わる。芝居と比べると、中身は相当芸人さん任せだ。少しでも意図と流れを理解してもらって、本番での爆発を期待するだけだ。
1時間ほどで、お疲れ様となった。
普通なら、亮治とミナミの街に繰り出すところだが、仕事が溜まっていて、今夜は大人しく帰路につく。
以上は芝居とは関係ありません。あしからずです。
■12月21日(日)■
さあ本番前日だ!
12時、御徒町・魂源堂。
僕は大阪から、なので今朝は8時起きだ。
御徒町駅で松月(六期)と待ち合わせ。東京在住の彼も、今回は手伝ってくれる事になった。
音効・増田さんも参加。但し、ノブシコブシと水野くんが不参加!致しかたない!
しかし、今日は哲ちゃんが参加。再開した東京での稽古では初めてだ。その分、覚悟してくれていると思うが哲ちゃんは大変だ。
ということで、今日は音のきっかけ合わせと、哲ちゃん中心の稽古となった。
明日は早い。八時頃に稽古を終え、最後の打ち上げをして、僕は蒲田のホテルへ向かった。
いよいよ明日だ。やれることはやったかといわれると自信は無い。もっと優秀な演出家なら、もっとやれただろうと云うことでしかない。
感慨よりは不安の方が大きい。芝居の内容ではなく、観客動員だ。それは明日にならなければ判らない。厳しい判定になるかもしれ
ない。それがかわら長介、初東京公演の答えだ。それがどう出ても真摯に、冷静に受け止めるしかない。
天気予報は明日午前中雨。確率は高くは無いがそう出ていた。厳しい事が多い東京になりそうな予感だ。
結局、製作日記は続くことになった。だが、もう一回だ。

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