前回も書いたが、愈々年賀状の季節だ。
僕は小学校時代から提出物が遅れる子どもだった。それは俄然継承されていて、確定申告は必ず六月、いや夏は過ぎる。年賀状も同様で、発送はいつもクリスマス過ぎになる。今年などは宛て名書きが年明けだった。果たして今年は????
ところで来年の干支は‘卯’。
ウサギと言えば、「兎十日目」「兎流動」「否瑪瑙棕櫚兎」「皮蛋兎」「兎聖記念」といろいろ関連事項はあるが、さてさて、今年の賀状はどれで行こう。
それでは、「困徒乃禁愚」、続きである!
【7】ラバーガール
――ネコと触れ合うことを目的にした「ネコカフェ」の店員(大水)と、そこにやって来た客(飛永)のコント。
――基本的にはお店のマニュアルが変なのだが、それ以外にも店員のボケが入る。例えば、返事がそっけなかったり、客が呼んでるのが分かっているのに奥へ入ってしまうというようなことだ。
――では、そのボケ。
▲「飽くまでもネコちゃんと触れ合うことを目的としたお店ですので、お客様が想像されているような性的なサービスは一切ございませんので・・・」
▲「お客様一名ご来店です。ニャァ!」「ニャァ!」(奥より店員達の返事)
▲店内用のスリッパから歩くたびに猫の鳴き声のような音が出る。それを直ぐに回収する。
▲料金説明。「1時間当たり78ネココイン。当店独自の単位でして、1ネココインあたり約12・82円です。分かり易く言うと、1時間千円になります」
▲客が「1時間でいいです」というと、「じゃ、こちらが78ネココインです」とお店専用のコインの束を出して、客の千円と交換。「では、お客様1時間のご利用ですので、78ネココイン頂きます」と二度手間のやり取り。
▲「飲み物は何を?」「アイスコーヒー無いんですか?」「アイスコーヒーは無いんですけど、ニャイスコーヒーならあります」
▲「ここ、ネコいないんですか?」「でしたら、こちらのおやつをあげたらいっぱい来ると思いますよ」「じゃ、買おうかな」「え、本当に買って頂けるんですか。本当ですか、こちらいつも無料で差し上げてるんですけど、買って頂けると言うことで500円頂きます」
▲客が早速おやつをあげようと「ネコちゃん。ネコちゃん」と何度か呼ぶと、リモコンカーの上にネコの縫いぐるみを乗せたものが登場!客も「マジかこの店!」
▲それでも結構堪能した客が帰ろうとすると、店員が「お別れの挨拶」をフリ付きで「ニャンニャンニャニャニャン!ニャンニャンニャニャニャン!ニャンニャンニャニャニャン、ニャン、バニャニャーイ!」呆れた客が「何すかそれ」と軽く突っ込んで、暗転。
〜ネタ直前の紹介VTRでこう言ってた。「どこにでもありふれた日常に不思議な笑いを見出だす(ナレーションのママ)」コンビだと。
■では「ネコカフェ」はありふれた日常か?決して全国どの町へ行ってもあるというモノでもないし、誰もが一度は行ったことがあるという場所でもないだろう。ありふれてはいない。
■そしてもし、「ネコカフェ」を日常だとするなら、そこから地続きの人間の生活へ視点を持って行けなかったかと残念がるのだ。つまり、ただ他愛もない「ネコカフェ」でしかなく、そこに何らかの視点も思想もないことを悔やむのだ。つまり、客の日常を導入することでこのコントは日常から見える非日常が浮き上がるのだ。分かり易く言うなら「ネコカフェ」の欺瞞性、不要性、非動物愛護性が見えて来る!そんな事を言いたい訳ではないかもしれないが。いやないだろうが。
■勿論、彼らの全てのネタが「ありふれた日常に不思議な笑い」ということではないだろうが、では「ネコカフェ」という設定で何をしたかったのだろう。前述と重複するようだが、それが見えてこない。
■世の中のありとあらゆる作品において作者の意図的な試みは「内容」か「形式」に、或いは一度にその両方に注入され、表現される。いや、されるべきである。だが、ラバーガールのこのネタにはそれがない。それは彼らのコントだけではない。今回の他の組のコントにもそうした何かを感じられないモノが少なくない。これはテレビの限界との闘いでもあろうから、既にテレビの枠内である「キングオブコント」にモノ申しても意味がないという一面もあるが。でも、そのかけらでもと僕は願うのだ。
■ところで、「ネコカフェ」という非日常(と僕は言う)を選んだのなら、僕はそれを忠実に再現すれば不思議な笑いは生まれて来ると思うのだ。それは「事実は小説より奇なり」そのものである。ネコカフェの実際のマニュアル、オーナーの考え、そして客同士の会話、店に置いてあるグッズ、等々。絶対変なはずだ!無理に小賢しいことをする必要はきっとない。まして、ウィキぺディアにもあるように彼らが(独自の空気感を有し、相手のズレた所に冷静に絡むシュールなコントを展開する)コンビだというなら、僕もそれは認めるし、だからこそ「ネコカフェ」ではない設定は幾らでもあると思えて仕方がないのだ。
※864点。僕は高いと思った。
では、8組目、最後だ。
【8】しずる
――中くらいの金庫がひとつ。今まさにそれを開け、金を頂こうとしている男(池田)とその横に立ってその首尾を見守っている仲間(村上)がいる。
――きっかけは村上が起こす。金をひとり占めしようと「御苦労さん。今までな」と池田に銃を向ける。
――しかし、その行動を池田は察知しており、ここからは全てが、恐いくらいに池田のシナリオ通りに運ぶ!しかし、それは必ずしも池田に有利な展開ばかりとは限らないのだ!
以下、「 」内は池田の台詞。
⇒「ははは!俺がてめえの裏切り読めねえとでも思ったのかぁ。俺に金庫を開けさせた後、背後から撃ち殺す。それを読んでいた俺はお前の銃の弾、予め抜いておいた。全部俺の描いたシナリオ通りさ」
⇒「お前は足に仕込んであるナイフに手を掛ける。それを察した俺は隠していた銃をお前に向ける。お前はナイフを捨てる。シナリオ通りさ」
⇒「お前は俺のスキを衝いて銃を奪おうと考える。シナリオ通りさ」
⇒「じゃあな、と言って引き鉄を引く。が、安全装置を外し忘れ、撃てず。お前に銃を奪われる。シナリオ通りさ」
⇒「そして俺は本気でお前にこう言うんだ。助けて下さい、とな。(土下座して)助けて下さい!シナリオ通りさ」
⇒「ただ、このままじゃ終われない。そう思った俺は奥の手のスタンガンを取り出そうとする、が、ポケットに引っかかって取れず、不意にスイッチを押してしまい感電する!(感電音)あああ!シナリオだ!」
――倒れ込む池田。池田の身体からは煙が!油断した村上に殴りかかる池田。
⇒「油断する!シナリオ!」(池田の手から銃が落ちる)
⇒「さあ、ここからがシナリオ本番だ!シナリオ通り動いて貰うぞ」
――ふたりの死闘が始まる!しかし、右フックも左フックもかわされる池田。これもシナリオ通り。そして、村上のヘッドバッドが炸裂!呆気なくダウンする池田。だが、これもシナリオ。更に、「ああ、凄い出血。シナリオな量だ」と、訳のわからない台詞まで飛び出す。
――形勢逆転。今や村上が池田に銃を突きつけている。お前が死ねばシナリオは終わりだろ、と迫る村上。遂に引き鉄を引く!が、弾は出ない。池田が手を叩きながら起き上り、「ザッツ シナリオ!」と大音声。
――そして何やら歌い出す池田。
「♪ツンツンツンツンツーンツーン
お前はバ〜カ だまされた
弾は無い〜よ 全部シナリオ」
⇒「最終的にお前がその銃を手にすることはシナリオ通りさ。だから弾は抜いておいたよ。本物の銃はこっちさ」
――金庫から銃を取り出す池田。どうせそれにも弾は入ってないシナリオだ、と村上は強気に出るが。池田が天井へ向かって引き鉄を引く。「バーン!」弾は入っていた。
⇒「お前は膝から崩れ落ちる。楽しかったぜ、じゃあな。(観念して膝まづく村上)と言って引き鉄を引く!(銃声!)が、弾丸はお前を外れて後の鉄骨に当たり、跳ね返って俺の脳天を貫いた。俺が死ぬシナリ!」池田、倒れる!
――勝手に死んだ池田を気持ち悪がる村上が金庫の中から一枚の紙を見つけて読む。
――池田の声で「この紙を見つけたってことは、もう俺が死んでるシナリオまで行ってるってことだ」。まさかここまでもシナリオ!村上が驚くのだが、「え、まさか、ここまでもシナリオって声が聞えるぜ」。気味悪さに震える村上。早々に金を持ってこの場を去ろうとするのだが、池田の声は続く。「さあ、最後のシナリオだ。よおく聞け。お前はバッグに金を詰めてここを出る。その瞬間!」その声を打ち消そうと止めろを連発する村上だが!「お前の幸せな人生が始まるんだよ!」意外な言葉に、村上が一言、「お、やったぁ!」そしてガッツポーズ!金の入ったバッグを持って去る。暗転!
■『別役実のコント検定!』(白水社刊)の5つの評価基準
「意表度」=状況設定、展開の意外性
「不条理度」=不条理性、非論理性
「ナンセンス度」=不毛性、無意味さ
「ブラック度」=無気味性、不思議さ
「風刺度」=現実批評性
に照らしわせると、このコントは如何なる評価を得るのであろう。因みに、その「別役検定」は☆5つを最高評価としている。
でも、きっと悪くない評価を得るだろうと思う。
「風刺度」以外は、軒並み高得点ではないだろうか。
■だが、「不条理」だ、「ナンセンス」だとは言え、コントとしては決して理解しがたいものではない。(シナリオ通りが何故か本人に禍する)という逆転コントだ。つまり、狙いと笑いどころがはっきりした意図的なコントと言える。
■そこを際だたせるためにも、ふたりの関係だの、前科だの、何故金が要るかだのという登場人物の委細は要らない・・・のだが、このままでは僕はモノ足りない。話が一重というか、流れが一辺倒なのだ。だから、例えば、村上が池田のシナリオに従わないとか、村上も別のシナリオを用意してたとか、複線的であってほしい。無論それは直ちに「意表度」「ナンセンス度」の増幅へと繋がるはずだ。
これは敢えてだ。そこまでやってくれると、僕は完敗する。
■更に敢えてだが、シナリオというモノを物語の大きな仕掛けとして使っているなら、「台詞を噛む」とか「読み間違える」とか「台詞を飛ばす」などのシナリオ在りきの笑いを入れるのはどうだろうか。彼らがこのネタそのものを遊んでいる、操っている感が出て、笑いは更に増大するのではと思う。勿論、これも敢えての言だ。
※そして、898点を獲得!前半1位のキングオブコメディに次ぐ高得点だ。これは納得です。
これで半分終了。この時点での順位は、
1位 キングオブコメディ 908点
2位 しずる 898点
3位 ラバーガール 864点
4位 ジャルジャル 829点
5位 ピース 827点
6位 ロッチ 826点
7位 TKO 820点
8位 エレキコミック 727点
さて、後半戦だが、やや時期を逸してる感もあることだし、ここからは僕が是非にも言いたいことがあるコンビに限定させて頂く。御容赦。
にしても、果たして、僕はどのコンビに何を勝手な事を言うのであろうか!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私事ながら、今年も「M−1準決勝」審査員の依頼の連絡がありました。止めろだの、老害だの、素敵だの、ご自由にだの、ウンコだの、恒河沙だの、那由多だの、阿僧祇だの、ご意見ありましょうが、今年も、謹んでお受けします。
因みに、12月12日、土曜日。場所はなんと両国国技館!
ほんま「八卦良い!残った!残った!」
さあ、決勝に向かって、誰が残るんだろうか?

15