「コント衛門」4・流星公演が終わりました。
だが、既に1ヶ月が経とうとしている!
御来場の皆様には、心よりお礼申し上げます。
そして、殆どタダ同然のギャラで出演を快諾し、1ヶ月を超す稽古に足を運んでくれた出演者のみなさんにも感謝と敬意を表します。
にしても、如何だったでしょうか?
いや、如何だったのでしょうか?
何かと反省の多い、第4回でした。
さて、第5回は来春です!乞うご期待!
と言うことで、台本載録です。
公演の中では4本目に上演した『ルシンダラワカ』
出演は3人。
・根堀家の父=帽子屋・お松
・根堀家の母・加絵=岡崎絵里子
・根堀家の息子・むさし=ライフバーナー・清友学
根堀家のある日である。
■コント衛門・4■
『ルシンダラワカ』
―暗い舞台。
■映像=何かが写る・・文字か?・・・
少しづつ明瞭になって来る・・・
カタカナだ・・・
「ルシンダラワカ」という文字が!
【音効】※以下・SE=ショック音!
――暗闇に男の叫び声が響く!
男「ウワ―っ!」(耐えられぬ恐怖に出た声だ)
【照明】※以下・L=明転!
――布団から飛び起き、上半身を起こし、
パジャマのまま肩で息をしているのは、
この部屋の住人、根堀むさし(27歳)である。
息子「な、なんだ?ル? ルシンダ?
ルシンダラワカ?ルシンダラワカ!ええっ!
なんだ?意味は!!!」(最後は叫ぶ)
【音楽】※以下・M=恐怖を煽って大きくなる
【L】=暗転
〜舞台転換〜
【L】=明転
――根堀家の居間。
ソファに座って顔を突き合わせてるふたり。
むさしの両親である。
素っ頓狂な抑揚のない声で母が言う。
母「あなた!今夜はなんだか嬉しそうね!」
父「ああ、嬉しいとも!」
――答える父も抑揚があまり感じられない。
母「理由は教えて貰えるのかしら?」
父「僕が生まれてこの方、何であろうと
理由を言わなかった事なんてあったかい?」
母「結婚前は知らないわ」(平然と言う)
――その屈託の無さに一瞬言葉を失う父。
見つめ合う二人。間があく。
父、気を取り直すように、
父「加絵は知ってるかな?」(試すように言う)
母「知りません」(感情さえ無いようだ)
――それに負げずに父が言う。
父「実は、明日は1周年だ!」
母「あら、何の?」
――その答えに、反撃に出る父。
父「あの子の親なら、考えて欲しい!」
母「判ったわ、むさしがひきこもって」
――我が意を得たのか、立ち上がる父。
父「そう丸1年!
去年の明日、私達の僕ちんは虫になった」
――何かを思い出したように
悲しい顔になる母、立ち上がって、
母「そして我が家は変わったわぁ」
父「当たり前のように暗くなったさ」
――父の顔も暗い。
母「心の底まで悲しくなったわぁ」
父「僕は仕事への意欲さえ激減さ」
母「私は喜怒哀楽のバランスが崩れたわぁ」
父「何とかしなけりゃあと思いつつ、
僕も加絵も何もできないでいたこの1年」
母「私達は、果たしてむさしの親なのかしらん?」
――思いがあって、元気になる父。
父「だが、その日が明日やって来る!」
母「その明日、あなたには、何かきっと
作戦があるのね。30年前、私にしたように!」
父「何、あれほどのことじゃないさ。
ひきこもり1周年を祝ってあげようというだけさ」
母「聞いたことない。聞いたことない。
聞いたことない。ひきこもりを祝うなんて。
それが例え1周年であっても」
――その言葉を意に介せず、乗る父!
父「ケーキを!」
――母も追随する。
母「シャンパンを!」
父「クラッカーを!」
母「ブーケを!」
父「ミュージックを!」
母「ダンスを!」
父「タヂカラオノミコトを!」
母「ま!これぞ天岩戸作戦!」
父「いやいや、天岩戸大作戦!」
――と、次々に喜びの声を挙げるふたりだったが、
母が何かに気が付いて固まっている。
父「どうした、加絵?」
――黙って、上手を指さす母。振り返る父。
そこには息子・むさし。
父母「むさし!」(父は口をパクパクするだけで
言葉にはできない)
――そんなふたりに近づいて行くむさし。
息子「やあ!」(片手を上げる)
父母「や、やあ・・・」(それぞれ片手を上げる)
――むさし、歩いて来てソファに座る。
目で追う両親。一瞬道を譲る。
父「出て来たん・・・だ」
母「出てこれたの・・・ね」
父「出て来るなん・・・て」
母「出てこれるなん・・・て」
父「出てもよかったん・・・だ」
母「出たかったのよ・・・ね」
息子「ちょっと違うけど・・・」
父「(重い空気を振り払うように、無理に)
僕ちんは去年の明日あの部屋に、
あの部屋に、あの部屋に・・」
――父の言葉を取るように言うむさし
息子「ひきこもった!」
父「それ!だから、
実は今日で丁度丸1年になるんだ・・・な」
母「だから、実は、パパなんか、
明日1周年のお祝いをしようって考えてたのよ」
――息子の機嫌を取ろうと言うのか、再び乗る両親。
父「ケーキを!」
母「シャンパンを!」
父「クラッカーを!」
母「ブーケを!」
――床を強く踏んで音を立て、乗っている二人を
制してむさしが言う!
息子「あのさ、僕、死のうと思って」(あっけらかんと)
――その途端、父は形相を変えて息子に襲いかかる!
【SE】=ショック音
【L】=父にスポット
父「何だと、てめえ!何があったか知らねえが、
勝手に丁度1年もひきこもりやがって、
のこのこと出てきたと思ったら、
死ぬだと!なめんじゃねえ!
お前のひきこもりのお陰で、俺たちがどんな
思いや仕打ちやセックスをしてきたか、
てめえ、判って言ってんのか!」
【L】=元に戻る
――言い終わると、ふらふらとむさしの下を離れる父。
心配そうに近寄る母。
母「パパ!パパ!どうしたの!」
父「え?あ、妄想か・・・」
――それはどうやら父の現実的な行動ではなく、
父の欲望が産んだ幻想だったのだ。
母「パパ、むさしが、死ぬって・・・」
父「そ、そうだ!ぼ、僕ちん、死ぬはないよ。
なあ、1年ぶりに出てきて、死ぬって、ないない。
うん」(誰に言ってるのか不明)
息子「(父の言葉を遮るように叫ぶ!)
全部、死んだら判るんだ!」
父母「え!!!?」
――驚ろく両親に、嵩にかかったように
説き始めるむさし!
息子「死んだら判る。僕は何故ひきこもったか。
僕は何故自分を嫌いになったか。
僕は何故泣くことをやめたか。
僕は何故呼吸が出来なくなったか。
いや、僕が何故生まれてきたか。逆に、
僕は何故生まれて来ない方が良かったか。
もっとだ!(ここから更に言葉に勢いが出る)
人は何故旅立つか!人は何故夢を見るか!
人は何故船や、弓や、お寺や、歌を作るのか!
世界のどんな何故も判るんだ!
死んだら判るんだ!」
――満足そうなむさし。唖然の両親。
3人の間に、妙な、微かな困憊に似た空気が漂う。
と、父が元気よく右手を上げた!
それを見ている母。むさしもそれに気が付く。
息子「はい、お父さん!」(指をさす)
父「賛成!」(快活だ)
母「賛成?」
父「ああ、賛成だとも。僕ちんに賛成だ。
だから父さんも死ぬ!」
母「あらー!」
息子「いたって無理の嫌いな父さん、無理しなくていいよ」
父「無理なんかしてないよ。だって、ちょっと死ねば、
世界のどんな何故も判るんだよ。
加絵、家にいるだけの君は知らないかもしれないが、
世の中、判らないことが多過ぎるんだ。
いや、世の中には判らない事しかない!」
母「そうね、私はあなたが机の上に書類を広げて、
判らない、判らないって頭を抱えているのを
結構見ているわ」
父「そうだったのか。加絵、僕の仕事は何だったかい?」
母「あなたのお仕事は裁判所の判事よ」
息子「地裁だけど」
父「(訴えるように)僕には何故法律があるか分からない。
何故最高裁があの案件を再戻したか判らない!
アレが何故冤罪なのか判らない!
何故あの加害者があんなことをしたか判らない!
あの事件の犯人が判らない!ああ、判らない!」
母「判事の判は判るという字なのに」
息子「判事の事は事実の事なのに」
父「お陰で僕は苦しいばっかりだ。
生きていてもいいことなんて一つも無い!
(急に答を得たように力強く語り始める)
それが、ちょいと死ぬだけで全部判って、
おまけに楽になれる。
こんな 一石二鳥はそうあるもんじゃない!
いや、一石十万鳥と言っていい!
死ねば判る、確かにそうだ。きっとそうだ!
むさしの言うとおり、人間、死ねば判る!!!」
――キョトンとする母。納得のむさし。やや間があって、
母「だったら、ママも死ぬわ!」
息子「ママまで!」
父「ママも!」
母「ママもよ!」
父「やっぱりそうか。そうだよね。
今のを聞いたら誰だって死ぬよね」
息子「でも、僕からすれば、折角1年間
ひとりになって考えて、やっと出した答えを、
あっという間にいいとこ取りされた感じだな。
パクられた!しかも、親に!」
――ソファに身体を投げ出し悔しそうに話すむさし。
その横へ坐って語りかける父。
父「親だから許してやってくれ。それよりも、
このまま3人で死んでしまっては、世間は
普通に根堀さんちが親子心中した
で済ませてしまう」
母「でも、息子さんの引きこもりが原因でぐらいは
言って貰えるんじゃないかしら」(母もソファに)
父「しかし、それじゃ、私の死はどうなる。
私の死の真の意味は!」(真剣な顔だ)
母「お手上げね」(あっさり)
父「お手上げだ」(両手を挙げる)
息子「この通り」(両手を挙げる)
――そこに母も加わり、3人で手の上げっこ!
やがて、父が立ち上がる!
父「よし、こうしよう。
ママは生き残って宗教を始める!
私たちが何故死んだか、何を求めて死んだか。
それを説いて回るのだ!」
母「ってことは、私は教祖!
素敵!女の子のなりたいもののひとつ、教祖!
それに私がなれる!」
父「根堀家、ここへ来て急にとんとん拍子だね!」
母「で、それって何教なのかしらん?」
父「宗教なんて、お題目と名前が一致して
判り易い方が良い。だからシネバワカル教で」
母「シネバワカル教!真新しいわ!」
――と、突然、 むさしが声をあげる!
息子「そうか!」
父「どうした、むさし。あ、父さん、
むさしを初めてむさしって呼んだ!」
母「根堀家、ここへ来てドンドン変貌を遂げて
行ってるわ!」
父「それもこれも、1周年のお陰だ」
母「え、それはちょっと違うんじゃない。
全ての始まりはむさしの引きこもりよ」
父「無論そうだ。むさし、すまない」
息子「シネバワカル教。もっと良いのがあるんだ!」
父「何、むさしが始めて家族に提案するんだ!」
母「根堀家はどうなるの!恐い!」
父「加絵。大丈夫だよ。根堀家は大丈夫だ。
どうにもならないよ。さあ、むさし、提案を!」
息子「その宗教の名前、ルシンダラワカ教はどう?」
父「なんだって、ルシンダ・・?」
息子「ルシンダラワカ」
父「それ何処から持ってきた?
・・・・ルシンダラワカ?」
母「ふふふふ!」(嬉しそう)
息子「ママは判ったみたいだね」
母「判事の判は判るよ!」
――そう言うと、母はむさしに寄って言って、耳打ち。
息子「正解!」
――その様子を見ていた父、悔しそうに!
父「諦めません、勝つまでは!」
母「あなた。繰り返して御覧なさい」
父「繰り返す?」
母「ルシンダラワカ!」
――言われるまま、その言葉を繰り返す父。
父「ルシンダラワカ!ルシンダラワカ!
ルシンダラワカ!」
――だが、どうやら遅いようだ。
母「もっと早く!」
息子「早く!早く!早く!」(腕をす!)
――言われて、父、早く繰り返して言う!
父「ルシンダラワカ!(繰り返しているうちに、
逆転現象が起きて!)
おおお!シンダラワカル!」
母子「そう、シンダラワカル!」
父「何と!シンダラワカルのルを頭に
持って行ったダケ!
なのに、この変貌感と宗教感!イタダキ!」
母「じゃ、私は明日から、いえ、今日から
ルシンダラワカ教の教祖ね!」
父「そして、私達は死のう!」
息子「父さん、何か、全部取り過ぎ!」
3人「ははははははは!」
――何故か、その行き着いた答えとは裏腹に
歓喜に溢れる根堀家!
【L】=溶暗
【M】=宗教音
【L】=溶明(暗め)
――すると少し着ているものが変わった父とむさし。
実は、その事はふたりが死んだことを暗示している・・・
父子「ははははは!はははは!」
父「全部判ると、笑うしかないな。はははは!」
息子「だって、そんなことで僕、ああだったなんて!
はははは!」
父「世界中がそういうことで、ああだったなんて!
はははは!」
息子「人類なんて!ははははは!」
父「まさか、マーシーが!」
息子「マーシーが!神だなんて!」
【M】=盛り上がって!
【L】=溶暗
終焉
2011・10・15(土)第一稿
2011・10・20(木)第二稿
2011・10・26(水)第三稿
僕は、魂や霊魂と言ったモノを信じないのだが、いや、もしある(いる)としても、それらは僕らの世界、つまり現実の世界に対し、何も出来ないと考えている。存在を判らせることも出来ないし、何の連絡も出来ないし、物を動かすことも、人の心や存在に影響を与えることも出来ない。
勿論、僕たちに見えることはないので、信じる人以外、彼らが存在するとは思えないのでもある。
しかし、それらが存在すると考え、良いにつけ悪いにつけ、人生や将来や日々の生活に関し、精神的に、肉体的に影響を受ける人々がいることは知っている。だからと言って、存在を信じない僕が彼らに「そんなものはいないのだから、あなた方がやっていることは意味が無いですよ」とは言わない。そうした存在を否定するも肯定するも、その人の精神であり、生き方であり、信仰であり、問題だ。
そしてもし、それらがいるとしたら、きっとそれらは時間的にも空間的にも僕らが認識できる世界を自由に行き来できるのではと思ったところから、このコントは出来た。
つまり、そう言う自由な存在、物体であるから、いつの時代にでも、何処へでも、それが宇宙の果てでも、ロンドンの街中でも、アマゾンの奥地でも、中国の雲南省でも、生きている人間の頭の中でも、死んだ人間の心の中でも、自由に行くことが出来、人間のやって来たこと、やっていること、やろうとしていること、何でもお見通し、つまり、世界の何でもがわかるのではと考えたのだ。
しかし、今、書いたように、残念だが彼らはそれを生きている誰にも伝えたり、教えたりすることが出来ない。それ故に、生きている人間は生の空しさを知り得ず、欲望は消えないうえに、何度も同じ間違いを犯すのだ。
このコントは、そこまでは書いていない。ただ、そうした存在は何でも分かる。つまり霊や魂は何でも分かる。つまり、死んだら判る。シンダラワカル!それだけの話だ。
だから、人間の、世界の、生き物の全てを知っている霊や魂はもう達観した、神のような、善の存在だろうと僕は思うのである。しかし、彼らは僕達、生きている人間に対しその善を行うことは出来ない。そして、彼らが善を行っている間、時(時間)は何も無いかのように流れるのだが、何かの都合で、一旦悪が行われると、それは波風を立たせ、人々に災いをもたらすのだ。それは人間の欲望であり、その結果の疑心暗鬼なのである・・・・・
そして、問題は「死」である。「死」で人間は救われるのか!
人間の自由の中に「死」を入れるのか。また、入るのか?
結局は僕の自由度に関わるのであろう。
僕は何処まで自由なのか?

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