2007年7月27日、今日も日本の何処かで誰かが謝っている。例えば、「東京新宿区、校長自身の給食費未払い」で関係者が。「神戸私立病院、乳がん患者に無断で臨床試験」して関係者が。「赤城農林水産大臣の領収書の二重計上問題」で本人が。そして、「フィギュアスケートの織田選手、酒気帯び運転」で本人が。
「給食費未払い」は新宿区のふたりの校長がその張本人で、謝っていたのは責任監督庁である教育委員会のナントカ課の課長だ。続く「神戸市立病院」は正式には神戸市立医療センター中央市民病院だそうで、患者の同意書を得ずに抗がん剤を使ったのは外科の医長と元医長。しかし、カメラの前で謝っていたのは神戸市保健福祉局の病院管理部長。これってどう?
どちらも、何故か本人ではない。そのニュースが紹介され、「その校長、或はその医者、どんな顔してるんだろう」もしくは「どんな謝り方をするのだろう」と思って期待していると何だか本人ではない人が謝っている。「え、おかしくない?」。先ず本人が謝るのが筋だろう。普通の感覚=常識ある大人の考え=普段子供達にこうしなさいと言っていることからするとちゃんと本人が謝らないと、と思う。「恥ずかしい」とか「格好悪い」とかいう本音と。組織としての責任の所在と覚悟を最初に見せておかないと後々面倒なことに・・・という建前の合体の結果だろう。構図としては、責任逃れの為に構造上の上部である責任管轄部署が謝っているわけである。やった本人の意思(悪意)や立場を解明したいと思っても、組織の構造がそれを許さないように出来ているのである。これを官僚制と言う。要するに責任の所在が曖昧に成るように作られているのである。
その結果、一番責任を感じるべき者=大人、が自分のやったことから逃げおおせたのだ。あさましく、腹立たしいばかりだ。どんな顔した奴やねんと思うのは僕だけではあるまい。無論、僕らが顔を見たところでその問題が解決に近付くわけでも無ければ、謝っている奴が下手に格好良かったり、妙に笑顔が可愛くて憎めない顔だったりすれば、下がるはずの溜飲も下がることなく、勝手な不満に「校長やいうのに、或は、医者ともあろう者が、あほちゃうか」と上げた拳も中途半端にならざるを得ない。
しかし、そんな下衆の感情はさておき、校長先生もお医者さんも大人ならば、自らの顔をちゃんと出して「私がやりました」と言おう。
そして「赤城農水大臣」だ。二重計上というのは同じ領収書(額面19万なんぼ)を自民党支部と後援会がそれぞれに計上していたもので、相次ぐ不祥事(疑惑)に、またかとマスコミが騒ぐのも仕方ないことだろう。流石にこの対応には赤城大臣本人が出ていたが、残念ながら謝っていなかった。いや、謝っていなかったわけではない、そこが微妙だ。つまり、「単純な事務処理上のミス」だと言い、「(ミスは)素直にお詫び申し上げる」と言ったのだが、次の瞬間「今後そういうことの無いよう、(部下を)指導しておいた」と言ったのだ。惜しい。赤城徳彦、48歳、もうちょっとで男を見せられたのに、直前で逃げた。最後は「部下」を悪者にしてしまった。やったのは部下で、私はやっていないと言ってしまった。そこは、上に立つ者として腹を括って「全責任は私にあります」と言えば男が立ったのに!
と言っても、上に立つ者としてはそれが普通なんだけどね。赤城徳彦、人間が小さい。これでは、今後下の者から信頼は得られまい。いざとなれば自分だけ逃げる人だと証明してしまったのだから。(※注:そんな彼も昨日遂に更迭されてしまいました)
そして、織田信成くん。あのNHK杯(だったか)の感動ほどではないが涙を流し、多少はそのために用意された文章っぽかったけど、「自分が甘かった」と誠実な謝意を述べていたのは、他の3件の大人達のことを思うと、少しはほっとする謝罪振りであった。
ただ、疑問に思ったのは、「何故、彼の通っている大学の人が横に?」ってことだ。何だか、関西大学にも責任があるような感じのニュース映像だったのだ。今回彼がお酒を飲んだのは、報道される範囲では、学校が主催もしくは関係する行事で飲んだようなことは無く、クラブの同僚もいたようだが、かなり個人的なことでの飲酒だったようだ。信成くんも二十歳だ。酒は飲んでいい年だ。いわば友達と飲んだ帰りに起こしてしまった道交法違反だ。学校に責任があるとは思えない。何で学校が出てくる?監督不行き届きってこと?だって、彼の飲酒は私的生活の範囲だと思うんだけど・・・どう。売名行為?それなら損してるし。しかも、記者達が大学側に何かを追及したようなことも無さそうだし・・・
そう言えば同じような疑問をもった事件があった。去年の2月頃だっただろうか、大阪大学の現役4年生でホストクラブ「侍」の店長だった工学部の生徒が恐喝で逮捕された時、大阪大学の人間が記者会見を開いていたのだが、それは今回より一層個人的な犯罪で、何で大学が?と思わざるを得ないことだったのだ。
確かに、織田君はそれなりに有名人であり、同時に世間の期待を担っている面があるから、そして阪大の場合は事件が些か大きく、世間の注目を浴びたから、と言うような面はあるにせよ、僕は両件とも大学は前に出る必要はないと考える。それは、現在の日本の大学の毅然さ、孤高性の欠如だと見る。
と言う、2007年7月27日だったのだが、こういう事件の裏のある局面に僕は喜劇(性)を見出す。そこにはコントとしか言いようの無い場面があるのだ。
それは「誰が謝るかを決める場面」だ。事件の張本人が「私が謝ります」と言い出せば、関係者の殆どは先ず胸を撫で下ろすことだろう。しかし、組織の体面上、或は組織の将来のことを考えた場合など、それが許されない場合もあるだろうし、何よりも本人が出て行くと、集ったマスコミの質問というか詰問が暴走し、その重圧に耐え切れず、本人が思わず言ってはダメな本当の事情まで口にしてしまう危険性がある。それは即組織の凋落、悪くすれば崩壊にさえ繋がる恐れがある。とても本人をそんな矢面に出すわけにはいかない。その時である、だれがマスコミに、そして世間に謝るか。誰しもそんな役はいやだ。緊急に集った幹部の間で押し付けあいが始まる・・・・・
『コント・謝る人』
〜とある役所の一室、4人の男達がいる。やや下手に椅子があり男が座っている。他の3人は立っている。全員がスーツ姿で、それなりの品格を備えた者たちばかりに見える。だ が、部屋の空気は重い。
その4人とは、
〇轟国土交通省北海道局・主任(42歳・別の椅子)
〇向坂東京都都市整備局・課長(45歳)
〇中桜東京都都市整備局・課長補佐(40歳)
〇時滝東京都福祉保健局・係長(32歳)
この4人が何故集められたか、そのあらましはこうである。
〜国交省北海道局の轟主任が記者会見の席でやや不穏当な発言をしてしまった。そのことで各方面から抗議が殺到。問題は予想外に大きくなり、主任の発言内容から政治的判断により東京都都市整備局に謝罪の大役が廻ってきた。さて、では誰がマスコミの前に出て謝るか。その相談なのだ〜
向坂「困りましたねぇ」
〜と、音楽が。TUBEの「あー夏休み」だ。どうやら携帯の着信音らしい。轟が自分のポケットから携帯を出して、電話に出る。一同の顔が曇る〜
轟「あ、何だ君か。うん、いやちょっとした
打ち合わせ。野暮用、野暮用。うん、はは
は。え、今夜は無理だな。いま、東京なんだ
よ。本当だって。明日行くから、ね。え?そ
うそう野暮用。じゃ、切るよ。はい。はい。」
( 電話を切る)
向坂「轟君、携帯って時じゃないだろう!」
轟「ありゃりゃ、こりゃどうも」(悪びれない)
向坂「それから、これは野暮用なのかね」
轟「え、そんなこと言ってました?」
向坂「言ってたよ。君はそういう性格かね。それ
であんなこと言ったの。普通あんなこと言う
かねぇ!」
轟「言いませんかね。だって、北海道のど真
ん中に高速道路通すことがどんなに大変な
ことか判ってないでしょ。自然保護団体は
いるわ、アイヌはいるわ、ヒグマはいるは、
丹頂鶴はいるわ。そりゃ、北海道には文明
は無かったから古墳や遺跡が出てくること
は無いでしょうけど、大変なんですから。
だから、それなら皇居のど真ん中に高速通
してから来やがれって。言ったんですよ」
向坂「言ったんだよね、これが」
中桜「だから、北海道の問題でしょ。何で東京
都職員の私が呼ばれなきゃならないんです
か!」
向坂「中桜君、そこは上の判断だ。そこを言っ
ても仕方がない」
中桜「でも、私に謝れって言うのは納得がいき
ません。何で私なんですか!」
向坂「外見なんだね、それが」
中桜「は?外見」
向坂「君のあだな知ってるかね」
中桜「私の仇名?無いですよそんなもの」
向坂「それがあるんだね。都庁のぬっくん」
中桜「え、ぬっくんて?」
向坂「知らないか。俳優の温水洋一だよ」
轟「そうですよね。私も誰かに似てるなとは
思ってたんですよ。そうだ、ぬっくんだ」
中桜「で、それがどうしたんですか!」
向坂「いや、その何とも寂しげな、自信なさげ
な風貌が、謝り役には持って来いだと。い
や、これは私が言ってるんじゃないからね、
上の判断なんだから」
轟「確かに、何かこの人に謝られると、仕方
ないなあって言うか、これ以上責めてあげ
てもなぁって気になりますよね」
中桜「あんたが言うな!あんたが原因なんだ
ぞ!」
轟「ありゃりゃ」(と、少し小さくなる)
向坂「とにかく、私はいやです」
轟「お。毅然と拒否する。見かけに依らず、
根性ありますね。私、そういう人嫌いじゃ
ないですよ」
向坂「あんたは、黙ってなさい!」
〜と、そこまで中桜の横に立ち何も喋らなかった男、時滝が一歩前へ出た〜
時滝「だから、私が謝るって言ってるじゃな
いですか!」
向坂「係長、あんたは関係ないの。これは整
備局の問題。あんた局も違うのに、しか
も、志願して来たって、どういうこと?」
時滝「義侠心ですよ。人の不幸を見捨てて置
けない性分でしてね」
中桜「時滝さんでしたか。私知ってますよあ
なたのこと」
時滝「おや、さいですか」
中桜「あなたの仇名、木下藤吉郎の草履持ち
でしょ」
時滝「良くご存じで」
轟「どういう意味ですか?木下藤吉郎の草
履持ちって」
中桜「織田信長の草履を懐で温めて出世した
木下藤吉郎の草履を温めてまで出世しよ
うとする人間ってことですよ」
時滝「これは厳しい。しかし、出世を否定し
ちゃ公務員はやってけませんよ」
向坂「時滝君、兎に角君は帰って貰おう!」
時滝「まじすか!私を帰したら損しますよ。
一度でいいから私の謝りっぷりを見てか
らにしたらどうです?」
向坂「帰ってくれ!どうかね中桜君?」
中桜「お断りします」
向坂「中桜君、君今、課長補佐何年やって
る?」
中桜「4年です」
向坂「私は課長補佐2年で課長になったんだ
よ」
中桜「それがどうしたんですか?」
向坂「ここで君がこの役を引き受けてくれた
としよう。多分だよ、多分君は来年の春、
いや、今年の秋には課長になってるんじゃ
ないかなぁ」
時滝・中桜「課長!」
向坂「時滝君は関係ないだろう!」
さあ、役者は出揃った、コントはこれからだ。結果、謝る役は誰に廻っていくのか予断を許さない・・・
と、こんなシーンが、今日も誰かが謝っている裏で繰り広げられていると、僕は思うのだ。

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