『王の男』
イ・ジュニク (監督)
チョン・ジニョン (主演男優)
カム・ウソン (主演男優)
イ・ジュンギ (主演男優)
チャン・ハンソン (男優)
カン・ソンヨン (女優)
2006年制作
2006年公開
☆☆☆☆☆

本国・韓国はもとより日本でも大ヒットし、イ・ジュンギを一躍スターダムにのし上げた歴史大作。韓流映画に限らず一般に映画というものは、期待し過ぎてしまうと大抵はガッカリするものだと思う。反対に、全く期待しないで観ると、それほどの映画でなくとも案外面白く感じたりする。期待して観て、期待を裏切らずに面白かった映画は滅多にないから、そういう映画には星五つを進呈している。韓流映画だと、『
トンマッコルへようこそ』(パク・クァンヒョン 監督 2005年)、『
サマリア』(キム・ギドク 監督 2004年)くらいか。本作が3作目。
実は、想像していたのと全然違うストーリーだった。どこかで読んだ、この映画のあらすじ紹介で、「王をネタにしていて捕えられた芸人たちが、その場しのぎで『王が笑えば王を侮辱したことにならない』などと言い張ったために、王の前で芸を披露することになってしまう。彼らの死を賭けた挑戦が今始まる。」みたいなことが書かれていたので、カタブツの王を笑わせるためにあのテこのテの工夫を凝らす、という話なのかと思っていたのだ(あぁ、大勘違い)。日本公開当時、巷ではイ・ジュンギの美少年振りばかりが話題になっていて、本作が、朝鮮王朝の実在の暴君の狂気に翻弄される、大道芸人の数奇な運命を描いたものだという紹介を目にしたことがなかった。

オリジナルタイトルは「
왕의 남자(ワンエ ナンヂャ)」。漢字で書けるところを漢字で書くと「王
의 男子」。「男子」ってのは必ずしも「男の子」のことではなく、成人を含めた「男」の意。「王」の読みが「ワン」なのが(中国語みたいで)面白い。
もっと面白いのは、本作の英語タイトルが“The King and the Clown”であること。そう、この話、王と道化の話なのだ。時は15世紀末から16世紀初頭にかけて。朝鮮王朝500年の歴史の中で最悪の暴君と言われている燕山君(第10代国王)が主人公。この映画、世間では、大道芸人を演じたカム・ウソンとイ・ジュンギの映画と考えられているのだろうけど、この狂気の暴君をおいて他に主人公なんて考えられない。燕山君は、己の悪評を省みずに遊び呆けた上、大臣の大量処刑を2度も行ったことで悪名高いらしいのだが(最終的には、謀反が起き王位を追われ、30歳で死んでいる)、彼自身の抱えるどうしようもない欠落感を埋めるべく傍に置かれることになった大道芸人の目を通して、その欠落感故に彼が狂気へと駆り立てられていく様を見事に描き出している。

元々は舞台劇で、それを映画化したものらしい。その辺りは『トンマッコルへようこそ』も同じ。もちろん僕は舞台を観ていないが、本作も『トンマッコルへようこそ』同様、オリジナルを超える出来映えになっているのだろうと思う。韓流映画を観た直後に日本映画を観ると、韓流映画の画面の構図やカメラワーク、音楽の使い方、等をやや粗雑に感じることが少なくないのだが、この映画は違った。あらゆる面において、非常にクオリティが高い。逆に、日本映画にはないような、少し暗めのヨーロッパ映画っぽいフィルムの色調がいい感じ。宮廷のセットも豪華。

この映画の見所は2つある。1つは、社会の最下層から権力者を風刺する道化の心意気。これを体現しているのがカム・ウソンで、本当に彼、格好良過ぎ。カム・ウソンの主演映画とされていることも頷ける。運命がどれほど過酷なものであろうとも、命がけで権力者をネタにし続ける道化の真髄ここにあり。
もう1つは、資質もないのに王の座に着かなければならなかった、王の「恨」。常に殺気立った目をしている王を演じた、チョン・ジニョンの熱演が素晴らしい。そもそも、大臣の1人が大道芸人たちを王の眼前に立たせたのは、民衆が王をどんな風に揶揄しているのかを知らしめ、王の目を覚ますためだった。ところが、事態は大臣の思惑とは異なる方向へ転がっていってしまう。大臣たちが王に何かを伝えようとする度に、追い詰められた王の狂気は強まっていく。

「王」と「道化」の間に立たざるを得なくなってしまうのが、イ・ジュンギ演じる女形芸人。評判通りの美しさだが、彼の演じる役柄は運命に抗うことなく流されるばかりでちょっと弱い。あるいはこれは、権力者の気まぐれに否応無しに巻き込まれていく、市井の人々の生のはかなさを表現しているのかもしれないが。
今日の一言韓国語は、「
누가 웃는 겁니까?(ヌガ ウンヌン ゴmニッカ?)」=「誰が笑うというのですか」。比較的セリフが聴き取り易く録音されているような気がしたので、韓国語学習者としてはハングル字幕表示のオプションが欲しかった。
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「王の男」公式サイト(日本語)

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