『スカーレットレター』
ピョン・ヒョク (監督)
ハン・ソッキュ (主演男優)
ソン・ヒョナ (主演女優)
イ・ウンジュ (主演女優)
オム・ジウォン (女優)
2004年制作
2005年公開
☆☆☆☆

24歳の若さで自ら命を絶ったイ・ウンジュの遺作。殺人事件・仮面夫婦・不倫・心中・禁断の愛、といった血なまぐさいテーマ満載の映画で、巷では、この映画への出演が彼女の死に何らかの影響を与えたと言われているらしい。ただ、そういったスキャンダラスな興味がなくとも、普通に映画として観て面白い。極めて現代的な内容を扱った作品で、この映画ならアンチ韓流の人にもオススメできる(ただし、最後は文字通り血まみれの修羅場にまで発展するので、要注意…)。オリジナルタイトルは「
주홍글씨(チュホン クルッシ)」=「緋文字」。
保険金目当てと思しき殺人事件の捜査によって、関係者それぞれの秘密が明らかにされていく過程で、前途洋々と思われた担当刑事の身の回りのウソまでが暴かれていく様を描いた、エロティック・サスペンス作品(韓流映画にしては過激なベッドシーンがある)。この監督の劇場長編映画監督デビュー作である『
Interview インタビュー』(2000年)でもそうだったが、登場人物それぞれにとっての一面的な真実を交錯させ、多面的な真実を浮かび上がらせる手法が面白い(日本映画『MISTY』(三枝健起 監督 1997年)を想い出した)。もともとドキュメンタリー畑出身であることが、この監督の作風に特色を与えているのだろうと思う。

本作のタイトルは、19世紀のアメリカの文学作品『The Scarlet Letter』(ホーソーン著 1850年 邦題は「緋文字」)からとられている(この映画の英語タイトルも「The Scarlet Letter」)。僕はこの小説を読んだことはないが、あらすじを読む限り、映画との直接の関連性はなさそう。小説のテーマや印象的な場面に、監督は何らかのインスピレーションを得たのではないかと思う。
前作の『Interview インタビュー』を観たときも感じたのだけど、この監督、かなりの切れ者だと思う。本作も、上述の「真実の重層構造」だけでなく、編集のリズムが良く物語の展開にスピード感がある。DVDに収録されていた、監督と主演のハン・ソッキュのコメンタリー音声を聴きながら観ると、監督が各シーンに込めた意味合いがよくわかり、「なるほど、映画というものはこういう風につくるものなのか」と考えさせられる(ハン・ソッキュも、経験豊かな俳優として、ときどき面白い発言をしている)。

この監督の映画を他にももっと観てみたいのだが、残念ながら、第3作は発表されていないようだ(イ・ウンジュの死が関係あるのだろうか…)。キム・ギドグ、ホン・サンス、ポン・ジュノ、パク・チャヌクらの映画が(「韓流」の枠を完全に超越してはいるものの)それぞれの「韓国らしさ」を漂わせているのに対して、ピョン・ヒョクの映画には「韓国らしさ」がほとんど感じられないように思う。逆にそれが彼の映画の魅力で、どこで映画を撮っても彼なら面白い映画を撮るのではないか、という気がする。第3作の企画や制作が進んでいることを願う。
『
八月のクリスマス』(ホ・ジノ監督 1998年)の良い人振りどこ吹く風のハン・ソッキュがいい感じ。このキャスティングは「イメージとのギャップ」を意図した監督の狙いだそうで、有能で部下からの信頼も厚く、美しく貞淑な妻(しかも妊娠中)をもちながら、その妻の親友と不倫関係にあるロクデナシを、いかにも誠実そうな彼に演じさせている。彼と(役柄的にも演技の上でも)対等に渡り合っているのが、殺人事件の秘密を握っていると思われる未亡人を演じたソン・ヒョナ。『
女は男の未来だ』(ホン・サンス監督 2004年)と言い、『
絶対の愛』(キム・ギドグ監督 2006年)と言い、どギツい役を演じることが多いのは演技力があるから…? それとも単に、もう若くないから…? (失敬!)

オム・ジウォンは『
トンケの蒼い空』(クァク・キョンテク監督 2003年)とは別人のように大人っぽい雰囲気で驚いたが、実際の年齢を考えてみると、むしろ(20歳そこそこの不良少女を演じていた)『トンケの蒼い空』でこそ上手く化けていたのだと思う。イ・ウンジュに関しては「舌足らずで、もの凄く甘ったるいしゃべり方をする人」というイメージをもっていたのだけど(そして、そこがあまり好きではなかったのだけど)、本作ではわりとスッキリしゃべっている。
今日の一言韓国語は、「
자〜,
메모해라(チャ〜、メモヘラ)」=「さぁ、メモしろ」。ハン・ソッキュはソウル生まれだそうで、綺麗な発音をする人だと思う(特にコメンタリーの音声でそう感じた)。

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