『茄子 スーツケースの渡り鳥』
高坂 希太郎 (監督)
山寺 宏一 (声優)
大泉 洋 (声優)
2007年制作
☆☆

サイクルスポーツ短編アニメ『
茄子 アンダルシアの夏』(高坂希太郎 (監督) 2003年)の続編に当たるOVA(Original Video Animation)作品。前作同様、原作は黒田硫黄による短編漫画集『茄子』(2001年 講談社)中の1篇。監督の高坂希太郎が脚本・キャラクターデザインもこなす。アニメーション制作はマッドハウス。
プロ自転車レーサーのチョッチは、同郷の先輩レーサーの突然の死をキッカケに、常に徹底した自己管理を求められ、年中転戦を強いられる、プロレーサーとしての人生に迷いを感じ始める。ジャパンカップ参戦のため日本を訪れたチーム・パオパオビールのメンバーは、悪条件の雨天レースの中、何を想うのか。

前作の主人公・ぺぺに代わり、本作の主人公はぺペの同僚レーサー・チョッチか。ぺぺを始め、前作にも登場したキャラクターが登場するが、絵柄が少し変わっている。今回は何と言うか…、「ルパン色」が強いように思う(ぺぺとチョッチの2人組が、ルパンと次元に瓜二つ(笑))。
「ジャパンカップサイクルロードレース」は、毎年秋に栃木県宇都宮市で行われている実在のロードレース。ヨーロッパの一線級のレーサーの出場する、アジア最高峰のレースだという。舞台を雨の日本としたため、技術的には、ヨーロッパの乾いた風景とは異なる、秋の北関東の風景描写や雨や霧の表現が見どころか。前作のような数十台の自転車集団そのものを1つの生き物のように描写するシーンはなかったが、実在のコースを駆け抜けていく数台の自転車の動きを滑らかに描くシーンには前作よりも見応えがあった。実在のコースを疾走するレーサーの視点から描かれたシーンは、自転車レースファンには堪らないものかもしれない。

前作と続けて観ると、自転車レースにおけるチームの作戦というものがわかってきて面白い。自転車はなるべく先頭に立たず、周囲の選手を風除けとして集団で走行した方が平均速度を上げることができるが、どこかで抜け駆けしないことには1等賞にはなれない。そこで、各チームは他のチームの動きを分断するために知恵を絞り、時に集団から抜け出し揺さぶりをかけたり、それを敢えて追わずに自滅を待ったり…、と駆け引きを繰り返すのだ。
前作のテーマが「故郷」だったのに対して、本作のテーマは「人生」か。永遠に走り続けなければならない、生きていくということの辛さが描かれている。自転車レーサーは文字通り「走り続ける」わけだが、走り続けるレーサーの姿を描くことを通して、原作者の黒田硫黄も、本作の監督・高坂希太郎も、クリエイターとしての自らの苦しみを描いているのかな、という印象。作品を生み出すために最前線を走り続けている彼らの、自らの背負っている業の深さへの苛立ちと、そこから逃げ出さないという強い決意が全編から滲み出ている。

上映時間は前作より10分ほど長い50分強。これは前作にも感じたことなのだが、1本の映画として考えると、この時間では少々モノ足りない。また、ストーリー展開は原作のままなのかもしれないが、やや未整理な印象。尊敬する先輩レーサーの死に直面し自らの生活に疑問を抱いたチョッチが、日本でのレース中に何を感じ、どのように迷いを払拭していったのか、その過程をもっとジックリ描いて欲しかった。正直言えば、原作者の名前をこれまで知らなかったのだが、随分評価の高い漫画家のようだ。原作漫画(あるいは他の作品)も是非読んでみたいと思う。
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『茄子 スーツケースの渡り鳥』公式サイト
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『茄子 アンダルシアの夏』公式サイト
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『黒田硫黄の仕事』(原作者公式ブログ)

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