『私の頭の中の消しゴム』
イ・ジェハン (監督)
ソン・イェジン (主演女優)
チョン・ウソン (主演男優)
2004年制作
2005年日本公開
☆☆☆
オリジナルタイトルは「
내 머리 속의 지우개」。「ネ(私の)モリ(頭)ソゲ(中の)チウゲ(消しゴム)」。前半が若いカップルの恋愛物語(キスシーンが2回以上ある韓流映画を初めて観た)、後半が若い奥さんが若年性アルツハイマー病にかかるという話。このとってつけたような設定がいかにも韓流映画だよなぁと思っていたら、日本のTVドラマ『Pure Soul』が原作なのだそうだ。

ソン・イェジンは、『
ラブストーリー』『
永遠の片想い』ではそれほど演技が上手だとは思わなかったのだけど、今では韓流恋愛映画の女王と呼ばれているそうだ。1982年生まれだからまだ若い人なんだけど。確かに堂々と演じていると思う。DVDパッケージの写真が別人に見えるのが残念。
いかにも韓流スター!という感じのチョン・ウソンが格好良いねぇー。彼を見ていたら、モリータ将軍という男を想い出した。将軍、織田裕二風の髪の毛がサラサラで、一歩間違えれば格好良いんだよなー。一歩間違えなかった、というところが大間違いなだけで。今からでも一歩間違えられないものだろうか。目指せ韓流スター!

日本人なのに何故かポールと呼ばれている男(函館出身)が、この映画を観て「ションベン漏らしながら号泣した」と言っていて、僕も漏らすつもりで観たのだけど、韓流映画を見慣れてしまった僕としてはそこまで感動できなかった。たぶん前半が長過ぎる。記憶が徐々に消えていってしまう様子をもっと丹念に描くべきだったのだと思う。DVDの特典映像の中に編集でカットされたシーンが収録されていたんだけど、残しておくべきだったんじゃないかなぁと思うシーンが2・3あった。特に、奥さんダンナの目を見て昔の男の名を呼び愛していると言う、あのシーンはもっと大事に使わなきゃ。あのシーンを効果的に活かせないようでは、韓流映画とは言えないなー。ハッハッハ。
とは言うものの、2000年以降の韓流映画を集中的に20本ちょっと観て、こんなの韓国国内でしか通用しないんじゃないの?と思うような映画がほとんどだったのだけど、ここ2〜3年でグッとレベルアップしているのかもしれないな、と思ったのもまた事実。この監督はこれが第1作らしいんだけど、それにしてはクォリティー高いと思う。こないだ観た『
黒水仙』もこれも、「韓流映画」としてではなく「普通の映画」として韓流ファン以外の人にも通用すると思う。
韓流TVドラマ・映画のとってつけたような設定、過度にドラマチックなストーリー展開が何故維持され続けるのかについては、僕はそこにヌケガケ型の社会的ジレンマ構造があると考えているんですね。韓国のTVドラマというのは、週1回ではなく週2回のペースで放送されて、視聴率が悪かったり評判が悪いとドンドン話の筋をかえちゃうんだそうです。とすると、短期的に効果の出る一発狙いの飛び道具みたいなものをドンドン使うわけですよ。突然死にましたとか、実は生きてましたとか。で、飛び道具を誰かが使い始めたら、同じ舞台で勝負している競争相手たちは嫌でも同様の飛び道具を使わざるを得なくなってしまう。死にましたとかさーそんなの安易だよなぁーと作り手自身が思っていたとしても、誰かがそれを始めたらその路線で勝負するしかない。結局、韓国TVドラマ全体のクオリティーが落ちるだけっていう、ホッケーヘルメットみたいなもんだと思うんですよね(ノーベル経済学賞受賞者のトーマス・シェリングの議論を参照のこと。誰かシェリングの本翻訳してくれんかなー。僕には英語の本を1冊読みきるだけの英語力がないので)。これは、日本のTVのワイドショーがどれをとっても信じ難いほどクダラないのに何十年間もなくならないばかりかクダラなさが増加している、ってのと同じ現象だと思う。たぶん本当にワイドショーを楽しんでいる人なんて少数派だと思うんだけど、いったんそっちの方向で勝負が始まってしまったら作り手は自主的に勝負から降りることはできなくなってしまう。そういう意味で、ここには社会的ジレンマのゲーム構造がある。
で、これは社会的ジレンマだから、飛び道具の使用に短期的な効果がある限り、ドラマの作り手たちはこのアリ地獄から逃れられないわけです(社会的ジレンマのことを社会的アリ地獄と呼ぶ研究者もいる)。ところが、ここにグローバリゼーションの波が押し寄せてきた。今では韓国の映画が中国や日本で公開されるようになった。日本の映画や音楽も韓国で流通するようになってきた。日韓中の合作映画も作られるようになってそれぞれ本国でヒットするような事例が現れてきた。中国というのは非常に巨大なマーケットである。韓国の人口4800万人、中国の人口が12億人。韓国国内でタコツボ的な競争に明け暮れているよりも、中国でちょっとヒットさせれば韓国全体の観客動員数を上回る。上述の社会的ジレンマのゲーム構造がどんどん崩れていっていると思うんですね。そうすると、悪い意味でいかにも韓流というようなTVドラマや映画は今後減っていくだろうという予測が成り立つ。飛び道具合戦をしなくて済むわけだから。あるいは反対に、日本や中国のTVドラマ・映画が韓流化していくか。いずれにせよ、日本と韓国と中国のTVドラマ・映画は互いのテイストを吸収して似通っていくんじゃないのかなぁ。
今日の一言韓国語: この映画の予告編で効果的に使われていたセリフが「
사랑해요 미안해요(サラ
ングゲヨ〜 ミアネヨ〜)」。パッチムの「
ㅇ(ngの音)」と「
ㄴ(nの音)」の発音の違いがよくわかる。字幕では「愛してる ごめんなさい」となっていた。
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「私の頭の中の消しゴム」公式ページ(日本語)

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