『ダンサーの純情』
パク・ヨンフン (監督)
ムン・グニョン (主演女優)
パク・コニョン (主演男優)
2005年制作
2006年日本公開
☆☆☆

『マイ・リトル・ブライド』の韓流ロリータ、ムン・グニョン主演によるロリコン
첫사랑(チョッサラ
ン=初恋)物語。何でもムン・グニョンは「国民の妹」と呼ばれているのだとか(日本でいうところの、かつての内山理名みたいな位置づけ?)。相手役のパク・コニョンはミュージカル畑の人で、本格的なダンスシーンが見もの。ダンス未経験者という設定のムン・グニョンが見る見る上達していく様も実に見事。ロリータのちょっと困った顔とか体操着姿に萌える、というのは、日韓共通のロリータの楽しみ方のようだ(ひょっとして世界共通?)。
才能がありながらライバルの陰謀に破れ失意の生活をおくっていた若き男性ダンサーが、自らの再起をかけ、ズブの素人娘を一人前のダンスパートナーに育てる決心をする。ダンスの猛特訓に明け暮れているうちに、彼女は、単に技術的に向上していくだけでなく、パートナーに対する信頼というものを学んでいく。その信頼の情はいつしか彼女の初恋にかわっていく。
オリジナルタイトルも「
댄서의 순정(テ
ンソエ ス
ンヂョ
ン)」=「ダンサーの純情」。映画の内容を考えると、むしろ「純情なダンサー」って感じだけど…。

この映画、極端な言い方をすれば、ムン・グニョンのロリータ振りを楽しむ映画なんだと思う。彼女が「中国の朝鮮族自治州からソウルにやってきた純情な田舎娘」という役を演じているのも、「ロリータ」で「純真無垢」で「世間知らず」で「けなげ」な、こんな少女がソウルにいるっていうのが、中国から来たことにでもしない限りいくらなんでも無理だ、ということなんだろう(もちろん日本でも、こんな少女はもはや絶滅したものと思われる)。
この「朝鮮族自治州から韓国に入国した少女」という設定が、実はいろいろ面白い。映画そのものは、夢のような純愛物語として描かれているのだが、その背景に闇世界がチラチラと見え隠れするのだ。朝鮮族自治州は、地理的には北朝鮮の北側の中国吉林省にあり、北朝鮮とロシアに接している。おそらくかなり寒冷な気候で貧乏地域なのではないかと思われる。朝鮮族自治州の更に北側に広がる黒龍江省からいわゆる農村花嫁として日本に来る女性がいるように、朝鮮族自治州から韓国に来る女性も韓国で稼いで家族に仕送りする、という目的で来る例がかなりあるようだ。彼らは中国籍であるため、そのままでは韓国で働き続けることはできない。そのため、韓国人と偽装結婚する、という手段をとる。朝鮮族自治州出身者と韓国人の結婚の6割程度が偽装結婚であるとすら言われている。

この映画でも、朝鮮族自治州のダンスチャンピオンを韓国へ呼び寄せるのに、主人公の男性ダンサーの先輩に当たる人物が「かなりの金を使った」と発言している(ところが実際にはその妹が来てしまった、という筋立て)。また、そのままでは韓国滞在すら難しいらしく、入国2日目には男性ダンサーと少女は偽装結婚をする。少女は、ダンスの猛特訓をけなげに耐え抜くのだが、そもそも彼女には中国へ逃げ帰るという選択肢はないのだ。猛特訓を受け入れざるを得ないのである(映画の中では、暴力団風の人間の影もチラホラ見える)。
また、映画中盤において主人公の男性ダンサーは、せっかく3ヶ月の猛特訓で一人前に育て上げたダンスパートナーを、2人が偽装結婚していることを暴露すると脅されてライバルに奪われるという悲劇に遭う(暴露されれば、男性も罪に問われる)。この映画のストーリーにおいて、2人が偽装結婚しているというのは、極めて重要な設定なのだ。ラブストーリーとしても、偽りの夫婦の間に芽生えた真実の愛、という具合に、この設定をうまく使っている。

韓国語に興味のある者としてもう1つ面白かったのは、少女の話す言葉がこれまで聞いた韓国語と微妙に異なっていたことだ。つい4ヶ月前まで韓国語なんて全く聞いたことのなかった僕でさえ、彼女がソウルの人々が話す言葉とは明らかに異なる方言を使っていることがわかる。例えば、「〜です」に当たる「〜
ムニダ」の抑揚のつけ方が違う。血縁関係にない男性に対する呼びかけの言葉「アヂョッシ」の代わりに「アヅバイ」を使う(この「ヅ」の発音も多くの韓流映画で聞かれる「ヂュ」と異なっていたように思う)、等々。映画の中では、男性ダンサーが「ヒドい北訛りだ」とたびたびからかっている。
韓国・北朝鮮以外の地域に住む人々が使う韓国語(朝鮮語)としては、中国語・ロシア語・英語・日本語の影響を受けたもの(例えば、在日コリアンの使う韓国語は発音がかなり日本語的になっているそうだ)があるが、そのうち最も韓国・北朝鮮の言葉に近いと言われている、中国朝鮮族自治州の言葉(中国語の影響を受けている)ですら、僕にも違いが何となくわかる、というのは驚きだった。
レンタルで借りてきたDVDにはハングル字幕表示のオプションがあった。
今日の一言韓国語は「
미안합니다(ミアナ
ムニダ」=「ごめんなさい」。こんな言葉ですら抑揚が違ってたんだよね〜。
→ 「
『ダンサーの純情』公式サイト」(日本語)

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