『トンマッコルへようこそ』
パク・クァンヒョン (監督)
チョン・ジェヨン (主演男優)
シン・ハギュン (男優)
カン・ヘジョン (女優)
2005年制作
2006年日本公開
☆☆☆☆☆

オリジナルタイトルは「
웰컴 투 동막골(ウェ
ルコ
ム トゥ ト
ンマ
クコ
ル)」=「トンマッコルへようこそ」。人気劇作家チャン・ジンによる同名の舞台劇(2002年?)を映画化したファンタジック人間ドラマ。監督はCFの世界でヒットメーカーとして名をあげたまだ若い人で(と言っても40歳くらいだが)、本作が長編映画監督デビュー作だそうだ。
時は朝鮮戦争の戦況が二転三転していた1950年。戦争が起きていることすら伝わっていない、太白(テベク)山脈奥深くの秘境が舞台。南北双方の、戦いに疲れ果てた男たちが、伝統的な自給自足生活をおくる山村に迷い込む。村人たちと生活を伴にするうちに、彼らが人間性を取り戻していく姿を描く。
逃げ込んだ先で出くわした、朝鮮人民軍兵士と韓国軍兵士との間の葛藤と和解をユーモラスに描いているが、「ユートピアで癒されちゃいました〜」というだけの映画ではない。映画の発しているメッセージそのものは、過激な言い方をすると「アメリカの勝手にさせるな!」というもの。戦いに疲れた兵士を癒してくれたのは、伝統的な農村生活。韓国を支援する国連軍にとっては朝鮮半島全域の共産化を阻止することが最重要課題であって、それさえ免れるのであれば当地の人々の生活がどうなってしまっても構わない。しかし、そこに生活の基盤をおいている人々にとっては、そういった政治的な問題よりも、自分たちの生活を守ることの方がよっぽど大切な問題だ。戦争に勝利したとしても、彼らが帰っていくべき地域社会が破壊されてしまっているのでは意味がない。朝鮮半島の住人は、当事者として、自分たちの手で自分たちの生活を守るべきだ、アメリカが守ろうとしているのは、私たちの生活ではないんだよ、というメッセージがこめられている(のだと思う)。(ちなみに、やはりトンマッコルの村人の世話になっていた国連軍のアメリカ人兵士は、朝鮮人民軍兵士と韓国軍兵士と共にトンマッコルを守ろうとする。)

韓国国内では賛否両論だったようで、2005年の観客動員数No.1映画であると同時に、「親北・反米的」と随分叩かれたそうだ。「親北的」だとは僕は思わなかったが(そう言われるのは、主演のチョン・ジェヨンが演じるのが朝鮮人民軍の中隊長で、しかもわりと人格者として描かれているせいではないだろうか)、確かに国連軍司令部の描き方などは非常に浅く、「反米的」という表現はわかるような気がする。そもそも「何故今、朝鮮戦争?」と考えると、米軍のアフガニスタン攻撃やイラク攻撃に対する批判が制作のキッカケになっているのだろうし。
「宮崎アニメの影響が見て取れる」等の批評を耳にしていたため、実際に観てみる前は、もっとファンタジー色の強い映画なんだと思っていた。トンマッコルは、古き良き伝統的地域社会として理想化されてはいるものの、現実に絶対にあり得ないほどのユートピアとして描かれているわけではないと思う。むしろ「現実の人間の生活の場」として描かれている。つまり、この映画、「ユートピアで癒された」という話なのではなく、「現実の生活を守ろう」という話なのだと思う。

2005年くらいから韓流映画のクォリティーはガンガン上がってきていると思うのだけど、この作品も、よくぞここまで!と思うほどクォリティー高いと思う。シナリオのテンポもいいし、役者の演技もいい。うまく笑いの要素も散りばめられている。音楽が何だか『天空の城ラピュタ』(宮崎駿 監督 1986年)みたいだなと思っていたら、宮崎アニメの多くで音楽を担当している久石譲が手掛けていた。映像もとても綺麗で、幻想的であるとすら言える。随所に現れる蝶のCGが、この映画を現代の寓話としてまとめるのに一役買っていると思う。
ちなみに、ポスター等でカン・ヘジョンが凄まじく子供っぽい表情を見せているのは、彼女が少し知的障害のある娘の役を演じているから。おそらく、彼女は人間の姿をした蝶の化身なのだと思う。トンマッコル周辺には多くの蝶が舞っている。この蝶は、人間らしい暮らしや、戦争によって荒らされていない朝鮮半島の豊かな自然を表すとともに、トンマッコルの守り神的な存在なのだろうと思う。ストーリー的には彼女が傷つけられる必然性はないのだけど、そういうシーンがあるのは、トンマッコルに戦火が及んできたこと(人間の生活が脅かされていること)を象徴するシーンとして必要だったのだと思う。
今日の一言韓国語は「
안그래?(ア
ングレ?)」。「
그래?(クレ?)」で「そうだろ?」みたいな感じだから、否定疑問文である「
안그래?」は「違うか?」 でも、結局意味は「そうだろ?」なんだと思う。
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「トンマッコルへようこそ」公式サイト(日本語)

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