カリフォルニアに来て一番困るのは、
医療事情の悪さである。
日本には診療所やクリニックがあれば、
そこには大抵の場合、予約無しで診て貰えるが、
ここでは予約無しで診て貰えるクリニックなんか、ない。
アメリカ合衆国の津々浦々でそこら辺の事情は
同じだと思うが、田舎だったユタで、
その日に予約を入れて取れなかった事は一度もない。
その上、ユタはクソ田舎のくせして、
ユタ大学というメディカルがまぁまぁ強い大学があるので、
医者の質も往々にして良い。
それがカリフォルニアに来て以来、
夫と私は原麻めぐみさんに紹介して頂いたC先生を
プライマリーフィジシャンに指定しているのだが、
そのC先生、大当たりに良かったのはいいのだが、
とにかく予約が取れなくて困ってしまうのだ。
一度、風邪の咳があまりにもひどくなって予約を入れたら、
「来月の終わり」と半ば2ヶ月待ちに相当する遥か彼方な
日にちを言われ、自力で治す事を決心した事さえある。
「そんなの医者の意味がわからん」と思うのだが、
往々にしてこちらの医者も診て貰う一般の人達も、
なんだか私達日本人とは違う意識で医者というものを
捉えているのではないか、と、そんな訝しみを覚えたりする。
私にとって医者は、具合の悪い時に診て貰いに行く所として
80%は位置づけし、残りの20%位を転ばぬ先の杖的場所と
感覚的に捉えているような向きがある。
だが、アメリカ人の場合、この比率が完全に反対になるのでは、
と、そんな風に思えるのだ。
つまり、お医者は歯医者と一緒。
健康診断を受けに行く場所としての最初の位置づけがあり、
その他に慢性疾患のある場合に通う場所として位置づけされ、
最後に急性的症状の緩和に訪れる場所、と、
なんだかそういう風になっているのではないかな、と。
婦人科系で診て貰いたい事があったので、
年に一度の子宮癌検診もついでに、と予約を入れると、
「あなたの去年の受診日は10月末でしたから、
それまで予約は取れません」の一点張りで断られたのは
はるか7月の半ば頃の事だった。
なんとか我慢に我慢を重ね、もう良いだろう、と
今日また電話をしたら、
「だから、あなたの去年の受診日は10月末だったんだから、
10月29日まで予約入れられないわよ」とまた言われた。
だが、今回はそこで引き下がらず、グッと腹に力を入れて
「だけど、ちょっと気になる事があるので、
出来るだけ早く診て貰いたいんですよ」と言うと、
「まぁ、診てあげても良いけれど、
そしたら、年一度の定期検診でなくなるから、
保険効かないかもよ」と、まるで脅しのような事を言われた。
キィーーーーーッ!!! と、なってしまった。
「いいのよ!じゃ、それはそれ、これはこれで払うわよ!
で、一番早いのはいつ?」
「ええーっとー、そうねぇー、22日?」
「エクスキューズミー! 22日は過ぎてまっせ!」
「エクスキューズミー、22日とは10月22日のことよ」
エ・・・・・・? たった1週間早い、だけ?
「だから7月に予約入れた時に入れてくれればよかったのよ!」
と、今更言っても後の祭りである。
そもそも、受付のおばはんには体の具合が悪い人が来る所、
という認識が最初からないに違いない。
これは、意識のズレに他ならない。
その上、1年に一度しかカバーされない保険って一体?
ならば、子宮癌検診の後に具合が悪くなって、
子宮癌かどうかもう一度調べなければならない時に、
そのパップスメアの代金は自己負担になるのだろうか?
意味わからん。
日本の健康保険は良い。
取り合えず、こんな七面倒くさい事はない。
大方の場合、医者へ行けば、どんなに待たされる事は
あったとしても、診て貰えない事はないし、
保険が効かない、なんて事もほとんどない。
皆等しく、社会保険、国民保険に入っている限り、
何事も保険で賄える訳である。
いかにも、単純明快だ。
アメリカのはまた複雑極まりないシステムで、
自分がどういう内容の健康保険に入っているのか、
一々調べておかないと大変な事になる。
医療費が日本の比ではない位に高額な上に、
入っている保険によって、保証が色々と違っているからだ。
国が健康保険を用意していない国なんて、
きっと先進国の中でこの国だけじゃなかろうか。
あんな経済的破綻を招いた戦争に大枚つぎこむ暇が
あるんだったら、どうして国民の為に使えないのか、
甚だ不思議としか言いようがない。
お隣のカナダは医療費、100%タダである。
旅行者だって、そこで病気や怪我をしたら、
全部無料で診て貰えるのだ。
税金は高いだろうが、アメリカの税金とて、
決して安くない。私達のような中流から情け容赦なく、
30%近いタックスを持って行くのに、
私達中流に恩恵深くあるであろう福祉には
ちっとも注がれていないのだ。
もうこんなに公共のトランスポテーションが
充実していない上に、あんなにガソリンも高くなって、
国民レベルで経済が上向きだ、と感じられる気配もなく、
その上、医療費は毎年50%から60%も値上がりして、
まさしく生活を四方から圧迫しているのに、
国のお偉いさん方はどっさり儲けているので、
庶民の懐具合を知る事もない訳だ。
そんな中、サンフランシスコ市は健康保険ができた。
州全体が、国全体がサンフランシスコみたいになったら良いのに。
そしたら、ストレスも減って、肥満も減るんじゃない?
一石二鳥かもやで。

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