「草の響き」
2021年 (コピアポア・フィルム/函館シネマアイリス) 116分 映倫:PG12
監督:斎藤久志 原作:佐藤泰志 脚本:加瀬仁美 企画:菅原和博 製作:菅原和博 プロデュース:菅原和博 プロデューサー:鈴木ゆたか 撮影:石井勲 照明:大坂章夫 録音:矢野正人 美術:原田恭明 装飾:森公美 衣装:小里幸子/白石妙子 ヘアメイク:風間啓子 編集:岡田久美 音響効果:伊藤瑞樹 音楽:佐藤洋介 ピアノ:村山☆潤 助監督:齊藤勇起 制作担当:中島正志 特別協力:佐藤喜美子 題字:佐藤泰志 アソシエイトプロデューサー:寺尾修一 出演:
東出昌大(工藤和雄)/奈緒(工藤純子)/大東駿介(佐久間研二)/Kaya(小泉彰)/林裕太(高田弘斗)/
三根有葵(高田恵美)/利重剛/クノ真季子/室井滋(宇野正子医師)
上映館:新潟市民映画館シネ・ウインド
採点:★★★☆☆
不倫スキャンダルでスクリーンから消えた東出昌大が、そのきっかけとなった映画「寝ても覚めても」以来3年振りに主演を務めた作品。東出昌大はその後も出演作品が公開されているのに、相手となった唐田えりかは引退状態というのは全く不公平なことです。
不倫などというものは当事者同士の問題であるはずなのに、マスコミは世界の終わりでもあるかのように騒ぎ立て、世の女性たちはそれを鵜呑みにして糾弾しているというこの国の仕組みはどうにかならないのでしょうか。
最近今井美樹を嫌いだという女性が未だに多数居るということに唖然としました。理由は山下久美子から夫の布袋寅泰を奪ったからというのですから呆れます。あの時布袋寅泰がニューヨークに行きたいと言ったのに対して山下久美子は付いて行くのは嫌だとして別れ、今井美樹が付いて行ったのだと思うのですが、マスコミはそれを略奪婚などとはやし立て、今井美樹を叩いたものでした。
まあ、それはさておき、この映画、夭折の作家佐藤泰志の原作の映画化を続けている函館シネマアイリスによる5本目の作品です。地方の映画館が地元を舞台に映画を撮り続けるというのは想像以上に大変な事ですが、そのことによって佐藤泰志という埋もれていた作家を発掘した功績は大きい。佐藤泰志は芥川賞に5回候補になりながら受賞できず、41歳にして自ら命を絶ってしまった作家です。
本作は芥川賞候補となり、映画化もされた「きみの鳥はうたえる」に所収されている作品で、主人公は自律神経失調症に悩む姿など佐藤泰志自身が色濃く投影されているということです。
東京の出版社勤務時に知り合って結婚した和雄と純子の夫婦は、和雄の病気のために和雄の故郷函館に移り住みました。しかし和雄は営業の仕事に馴染めず、仕事を辞めます。精神科医の勧めで毎日ランニングするだけが彼の日常となります。
ある日和雄はランニングの途中でスケートボードで遊ぶ、彰、弘斗、恵美の3人に出会います。
という感じですが、彰は学生時代の和雄なのではないか、という気がしてなりません。和雄の物語と彰の物語は通常の映画では過去の回想シーンのように唐突に繋げられています。
彰は和雄の分身であり、そして唐突に姿を消します。
一方和雄はすべての事から逃避しています。仕事も学生食堂の皿洗いという単純作業に逃げています。妻から言われた家事も空返事でやろうとしません。
そんな彼が妻の妊娠という現実を突きつけられて逃げられなくなります。最初は頑張って家事もし、育児書なども読みますが、ついには睡眠薬を多量に飲み、自殺を図ります。
閉鎖病棟に入れられた和雄に、純子は自分が和雄の重荷になっていると思い、東京の実家に帰ることにします。
ラストの病院から裸足で抜け出し、軽やかに走り去る和雄の開放感たるや!
人生とは色々な重荷を背負って歩くものです。結局和雄はその重荷に耐えきれなかったのだと思います。そういう意味では駄目人間をうまく描いた映画ではあるけれども、やっぱり、映画には最後に救いが欲しいと思うのです。
東出昌大は生真面目な優等生が壊れていく様子を的確に演じており、やはり稀有な役者であると実感しました。しかし、彼が復帰するのであれば唐田えりかも復帰させて欲しいと切に望むのです。
2022/1/26 17:00 (202208)
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