「徘徊 ママリン87歳の夏」
2015年 オリオフィルムズ=風楽創作事務所 77分
監督・製作・撮影・編集:田中幸夫
出演:(ドキュメンタリー)酒井アサヨ/酒井章子
上映館:新潟シネウインド
採点:★★★★☆
大阪・北浜のマンション自宅にギャラリーを併設している編集者の章子さんと認知症の母アサヨさんの日常を撮影したドキュメンタリーです。
度重なる徘徊によってしょっちゅう警察のお世話になるため、アサヨさんは刑務所に入れられると思っています。そんな母と辛抱強く会話する娘の章子さんとの会話は無限に噛み合わず、時には思わず笑ってしまうこともあります。
深刻な状態に見えても、既に6年も過ごしているとそれは日常になってしまう、これは自分の介護経験からも大いにうなずけるところです。街の人がその状況を知っているので、アサヨさんを見かけた人が連絡をしてくれたり、お店でコーヒーをおごってくれたりするので都会のありがたさを感じるという話は確かにあるなと思います。
また、章子さんには迷惑をかけたくないから、一緒に歩きたくないのに、いったん章子さんの姿が見えなくなると途端に不安になり、道行く人に交番の場所を尋ねるというアサヨさんの心理もうなづけます。
認知症は長寿社会の現代に生きる誰もが避けて通れないものとなりつつあります。この映画は、別に何か解決策をもたらすわけでも、問題提起をするわけでもありませんが、認知症ってこんなことなんやな、と知るひとつの手がかりとして面白く観ることのできる映画です。
認知症と言っても人によって症状は千差万別なので、実際はそんな甘いもんじゃない、などと言っても仕方のないことです。ここにはある家族のありのままの生の息遣いが感じられる点が良いと思います。
映画館の観客は、認知症世代とも言える高齢者の方でほぼ占められていたのも興味深い点でした。
http://hai-kai.com/cast.html

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