「春を告げる町」
2019年 (広野町/JyaJxa Films=東風) 130分 映倫:G
監督:島田隆一 プロデューサー:加賀博行/ 島田隆一 撮影:島田隆一 録音:國友勇吾 整音:川上拓也 編集:秦岳志 音楽:稲森安太己 助監督:國友勇吾
出演:(ドキュメンタリー)
渡辺克幸/ 新妻良平/帯刀孝一/松本重男/松本文子藤沼晴美/福島県立ふたば未来学園高等学校演劇部
上映館:新潟市民映画館シネ・ウインド
採点:★★★★★
震災後の全町避難から7年、今では人口の半数が復興関連労働者という広野町の1年間を追ったドキュメンタリー。日常生活を取り戻したかに見える住民たちの生活を縦糸に、復興とは何かを問いかける演劇を作ろうとあがく高校生を横糸に淡々とカメラが追うのですが、一切のナレーションも説明文も無い構成は凄いと思いました。
そのため、注意深く観なければなにも起こらない普通の生活をただ撮っているだけに過ぎないように見えてしまうかもしれませんが、その生活が一瞬にして失われ、それが7年の歳月を経て現在その“普通”が、いかにかけがいのないものなのか。観客の想像力を試される映画でした。
復興住宅から自宅に帰ってきたお年寄りは、復興住宅の方が隣人との助け合いがあって暮らしやすかったと言います。元の生活に戻ることが復興ではないのではないか、という問いかけがそこにはあります。復興のために祭りの復活を呼びかける市の職員の女性は、ブラジルでらい病患者の施設での経験があり、福島から自主避難をしている人たちと“棄民”という言葉で繋がっていると語ります。彼女が漏らした、原発の煙突を見るとふるさとに帰ってきたと思うんです、という言葉はとても象徴的でした。
現在も帰宅困難地域にある家に帰った親子も印象的です。この部屋はつぶしてゴミを置いているという部屋にはビニール袋の大量のごみが置かれて中に一台のピアノがありました。防護服を着た娘が手袋をしたままそのピアノを弾くシーンには涙を禁じ得ませんでした。
そうした、直接的には震災を語らない市民の感情を代弁していたのが復興をテーマにした演劇の練習をする高校生たちです。復興したとはどういう状態を指すのか、未来を託されるというのはどういうことなのか、言葉に出来ない感情というだけでは演劇としてひとに見せることは出来ないと、もがく姿は、そのまま震災にあった人たちの思いそのものです。それはこのドキュメンタリーの作り手たちの気持ちでもあったと思います。
このドキュメンタリーはナレーションを入れず、すべてを写されているひとの言葉で語らせるという、とても映画的な手法を取ったことで、良質なドラマを観ているような感動がありました。130分の長さを感じさせない希有な映画ではありましたが、それは観る側の感性をも試されるという事かも知れません。
https://hirono-movie.com/

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